立海ゆめ
□ある日のプリガムレッド
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思春期の彼らには十分すぎる刺激でした…―
〜ある日のプリガムレッド〜
『ぃやっ……あぁ、あん!ああ……んっ…やぁ…』
『ふふ…嫌じゃないだろう?ここ…。こんなに濡らしちゃって。』
『ああ!!…いっ……いじわるぅ。』
「……………。」
お昼時の屋上にて。
ベタといえばベタなのだが、思春期の彼らには少々強すぎる刺激のようで。
物陰から見守る彼らの頬はほんのりピンク色に染まっていた。
「これって、あれだよな?」
「あれって何すか先輩?」
「あれは…あれだよ。お前だって本当はわかってんだろぃ?」
「オレ、バカだからこういうのわかりませ〜ん。」
「はあ?」
「まっ、思春期じゃしなー。」
壁に這いつくばるようにして目の前で繰り広げられている光景に食い付くテニス部員三人。
鼻の下が完全に延びきっている。
「わかってるくせに、先輩に言わせようなんざ、いい度胸してんじゃんか赤也?覚悟は出来てんだろうなーああ?」
「丸井先輩怖いっす…。ウソウソ!冗談ッスよ!!本当はわかってますって!すみませんでした丸井先輩〜!」
「はあ…まあいいだろう。見ろよあの相手の女。あんなに足開いてあんあん喘いでんだぜ?あの体制からしてマッサージってオチはなさそうだしな。」
「たっ確かに…!流石丸井先輩っすね!」
「まっ、思春期じゃしなー。」
見てはいけないとわかっていながらも、物陰に隠れてじっと除き見る様は、年頃の少年の証とでも言おうか。
ああだこうだ言い合いながらも目の前で行われている行為から視線を反らすことが出来ないのだから。
いやらしい連中め……
「思春期っつってもよ、俺らまだ中学生だぜ?大人の階段昇るにはちょっと早すぎるんじゃね?」
「あっ!それ俺も思ったッス!いくらお年頃とはいえどあの男。手を出すのが少し早すぎるっすよね〜。」
「まー思春期じゃしなー。」
「っ……仁王。お前さっきからそれしか言ってねえじゃん。」
「思春期じゃしなー…」
どこか上の空な仁王にらしくないなと言いながらポケットからガムを取り出すブン太。
グリーンアップル味のそれを口に放り込むと、クチャクチャと風船を膨らまし始める。
仁王がコンクリートに座ったのを横目で確認すると、後を追うように自らも腰を下ろした。
どうやら彼らは覗き見するのを止めたらしい。
「ちょっと仁王先輩に丸井先輩まで!どうしたんっすか?もしかしてもう飽きちゃったとか!?」
「いや〜別にそういう訳じゃねえけどさー。何て言うか…なあ?仁王。」
「そうじゃな。ブン太。」
「なっ!」
「何二人で以心伝心してんすか!先輩達マジ意味わかんないっす!」
「お前はワカメだけどな。」
「余計なお世話っす!!」
ブン太まで覗き見を止めてしまったせいで、一人取り残された気分になった赤也は同時に覗き見しにくくなってしまった。
仕方なく二人の正面に腰を下ろし胡座をかいて、ポケットに入れている携帯を取り出し弄ることにした。
その間もカップルの行為は続いており、時折女性の甲高い声が耳に入ってくる。
いよいよラストスパートに入ったらしい。
いくら広い屋上といえど風もない晴天の日なら、少し遠くからでも届いてしまう。
『あっあっ…ああぁ!…ひぅっ……んん、んんん!!だっ……だめえぇ〜!』
『っっ……ダメッ……じゃ、ないだろう?本当はイイくせに。』
『ああっ…あっ……ああ!そんな…ぁっ、こと……んっ……ない。』
『じゃあ……これは…どうかな?』
『あああっ!!ああっあっあぁっ……激しいよぉ!!』
パチンッ!!
「(ビクッ…!!)」
「いよいよラストスパートに入ったようじゃの。」
「そうだな。ケッ!…マジうぜえな。」
「えっ!?……ウザイ??」
先ほどまで上の空だった二人が不意に口を開いたかと思えば、吐き捨てるような口ぶりで何処と無く不機嫌なようだ。
ガムが弾けた音と女生徒の喘ぎ声のタイミングがあまりにもよかったので、赤也は若干冷や汗をかきながら二人に下手な事が言えずにいた。
この人達は何をそんなに怒っているのだろうか…?
「俺だって!…まだ彼女すら出来てないってのに。あいつら本当ムカつく!」
「見てて虚しくなってくるのうー。そろそろ場所変えるか?」
「そうしようぜ!なんかムラムラしてきた!!」
「…………あっ!」
成る程!仁王先輩もブン太先輩も、あのカップルに妬いてたんすね!
二人の機嫌が悪い理由がわかった所で、赤也はようやく緊張感から解き放たれた。
そうと決まればもう一安心だ!
俺も丸井先輩も仁王先輩も、今の所彼女がいない。
自分達に出来ないことを目の前でどうどうとやられて、機嫌を損ねる気持ちもわからないでもない。
しかしもとはと言えばここに来ようと言ったのは丸井先輩と仁王先輩だし、始めに覗き見を始めたのは丸井先輩だ。
自業自得……っといえば自業自得なのだ。
でも……
「そっすね!場所変えましょうか!なんか俺もムラムラしてきたっす♪部室行きましょう部室!」
俺らはまだ、昇らない方がいい階段だということはわかった。
なんかスッキリしたな!
二人が立ち上がるのを見て赤也も続くように携帯をポケットに戻し立ち上がった。
ズボンに付いた砂ぼこりを軽くはらい、太陽に向かってぐーっと伸びをした。
そんな赤也を見て丸井は…
「お前は機嫌いいだろぃ?…おれ、知ってんだぜ?昨日クラスの女子に告られてただろぃ?」
「なっ!?」
何でそれを丸井先輩がっ!?
「何で丸井先輩が知ってんすか!?確か誰にも教えてないはず………あっ、仁王先輩は知ってるか。」
「俺が教えたなり。」
「仁王先輩〜!?」
「いいな〜モテモテな奴は!赤也は案外ちょちょっと大人の階段昇っちまいそうだぜ。」
「安心してください丸井先輩。俺、今は好きな奴いないんで!昨日の告白だって断りましたし、しばらく予定ないんで!」
「ウソつけ!!」
「怪しいなり…」
チャイムが鳴ったのを合図に彼らが屋上を出ていく。
それに続くようにしてカップル達も達したのだった。
★終わり★
(彼らにはまだ、早すぎますね)
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