立海ゆめ
□偶然がくれた恋だった
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例えるならそれは、偶然が引き起こした運命の恋。
〜偶然がくれた恋だった〜
ある日ここで、運命の出会いをした。
階段から落ちた私を支えてくれた、眩しいほどに美しい銀の彼。
綿の上に落ちたようなふわりとした感覚に目を開けると視界一杯に広がる虚像。
一言で言うなら一目惚れ。
彼に今一度会いたくて訪れた出会いの場所。
二階の西階段…
今の時間はちょうど移動教室で、仁王先輩はよくこの階段を利用すると聞く。
だから…
「あの日言えなかったお礼を、ちゃんと言いたい。」
まっ、理由はそれだけってわけでもないんけど。
握りしめた紙袋は緊張のあまり少し皺が付いてしまっている。
しかしそんな些細なことさえ気づかないほどに今の私には余裕がなかった。
昨日あんなに練習したっていうのに!
よし、もう一回練習しとこ!
えっと、まずお腹一杯に息を吸い込んで、それから……
「あっあの……仁王先輩!!」
「なんじゃ?」
「え?……ぎああぁ〜!!」
なんで仁王先輩がここに!?
「カエル踏み殺したような声出すんじゃなか!ビックリするじゃろ。」
「ごっごめんなさい!でもビックリしてしまって!!」
だって突然現れるんだもん!
危うく手に持ってる紙袋落としちゃう所だったよ!
でも…目の前にいる、憧れの仁王先輩。
間近で見るとすごくカッコイイ!!
緊張のあまり心拍数が上がっていくのがわかり、仁王先輩に聞こえちゃうんじゃないかって心配になるくらい!(←それはない)
落ち着け自分!
勇気を出してここまで来たのはなんのためだ!
この前のお礼を言いに、わざわざ情報収集までしてやっと辿り着いたんじゃない!
昨日あれだけ練習したんだから大丈夫、言える!
もう一度、お腹一杯に息を吸い込んで…
「あの……仁王せんぱっ!」
「お前さん、この前ここで会った1年じゃな?」
えっ……?
「は………はい!」
覚えててくれたんだ!
「あの時は驚いたぜよ。突然空から重い物が落ちてきたと思ったら、1年の女の子じゃったんだからな。いやーあの時は急いでたからのう。名前も聞き忘れてしもうて。」
重い……もの?
あはは、やっぱりダイエットしなきゃ。
…ってそうじゃなくて!!
「あっ!あの時はありがとうございました!仁王先輩が助けてくれたお陰で、怪我1つしなくて済みましたから。今日はそれを言いに。」
「そんなことの為にわざわざ待っとってくれたんか?気にせんでもよかよ。お前さんが落ちた所に偶然俺がいた。それだけなんじゃから。」
「はっ…はい!」
偶然、それだけ……か。そりゃそうだよね。
私にとってあの時の出来事は忘れることの出来ない、大きな大きな夢のような瞬間だったのに。
あの日から仁王先輩の顔が頭から離れなくて、これが片思いなんだと気づいたのはその時で。
私にとって貴方と出会ったあの瞬間は、偶然なんかじゃなくて奇跡だったのだから。
でも仁王先輩は……
「私、仁王先輩にお礼がしたくて。その……あっ、これ!!」
「ん?なんじゃこの紙袋?」
不思議そうに渡された紙袋をまじまじと見つめ、興味津々に中の物に視線を落とす。
すると中からスポーツタオルが出てきた。
「タオル?」
「はい!仁王先輩テニス部に入ってるんですよね!汗とかかくからタオルとかいるかなーと思って。」
何日も悩んでやっと決めた物だから、仁王先輩喜んでくれるかな…?
「もらっていいんか?」
「ぜひ!」
「ふっ…ありがとう。」
キャアー―!
その笑顔は反則だって!
でも喜んでもらえてよかった。
「俺な、お前さんに言いたいことがあったんじゃ。」
「え?私に、ですか?」
「ああ。」
えっ、何だろう?
首を傾げながら俺を見上げてくる彼女に俺はひどく困惑した。
これはもう言うしかない!
直感でそう思った。
彼女の必死な姿を見て、俺も前に踏み出さなければならないと、そう思ったから。
彼女にばかり頑張らせるのもかわいそうじゃしな。
仁王は小さな彼女の耳に唇を近づけ、熱い息とともに甘く囁いた。
「お前さんのこと、好いとうよ?」
「…っっ!?」
威力は絶大だった。
顔中を真っ赤にした彼女は口元を押さえながら信じられないと言った眼差しで俺を見つめてくる。
信じられんて?
なら……もう一回。
「…好いとうって言ってるんよ。なっ、お前さんの答えは?」
その無防備なおでこにキスしてやると、変な声を上げながら飛び上がった。
反応がいちいち可愛いんじゃから。
もっと苛めたくなる。
この出会いは偶然が引き起こしたモノなのか、それとも・・・
「わわたしも!……仁王先輩のこと好きです!それも言いたくて、今日はここに!」
「そっか…お前さんも好きか。俺もあの日からお前さんを好いとうよ。」
「はい!」
運命なのか・・・?
★終わり★
↓お題
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