記念リクエスト

□長い散歩
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「はぁー、やっと行きやがったか」




銀時は、ソファにだらしなく寛いでいる。先程ようやく、五月蠅い二人と一匹が万事屋を出て行ったのだ。お妙と一緒に買い物だ。
ゆっくり休んでいたらコンコンと玄関のドアが叩かれた。玄関の方を向くと誰かが立っていた。銀時は、ふぅと溜め息をつき玄関方面へ向かう。




「はいはい、どちらさん??」

「………」

「お前は…!」




グラサンにツンツン頭、そして背中には三味線。何ヶ月か前に、銀時と闘った相手。銀時は数歩後ろに下がり河上万斉から距離をとる。




「警戒しないで良いでござる」

「何しに来た」

「主に伝えなくても拙者は良い気がするのだがな……」

「…は?」

「…何もない。実は、晋助が鬼兵隊を抜けた」

「………ぇ?」










†長い散歩†










銀時は、地図を片手に持ち道を歩いて行く。
この紙切れは先程万斉から渡されたモノだ。
万斉の答えに半信半疑でいながら紙切れに書かれている場所へ移動する。目的地には星マークがあり、そこに行けば分かると万斉に言われ、銀時は向かっているのだ。




「っと…此所か」




銀時は辺りを見回した。ついた場所は、なんとも言えない所であった。人気が全くなく、廃墟より酷くはないがボロい家があった。




此所で…あってんだよな。
つか、俺、敵の言葉なんざ信じていいのか??





『実は、晋助が鬼兵隊を抜けた』

『………ぇ』

『よって晋助の跡継ぎは拙者となった。それだけ伝えに来ただけでござる』

『…ちょ、おい』

『信じられないのなら此所へ行くと良いでござるよ』




ま…入ってみるか。
入ってみないと分からねぇしな…。





銀時は、そう自分に言い聞かせるとドアに手をやりガラリと開けた。すると、一人分の草履が揃えられていた。中に誰かいるのかと把握した銀時は、同じように靴を並べ家の中に入っていった。




「…万、斉か??」




部屋からふらつきながらも人物が現われた。
現われた男性は、万斉かと思っていたが銀時を見ると目を丸くさせたのだった。




「…銀時」

「高杉…お前ホントに鬼兵隊を抜けたのか?」

「あぁ…。万斉から聞いたんだな。…状況が変わっちまってなぁ」

「……??」




どうやら、高杉が万斉に伝えるよう頼んだようだ。高杉は、ケホッと咳すると銀時に座るよう告げた。部屋に通されたら、布団が敷かれており寝ていた事を物語っている。高杉は、布団に座り膝まで布団を掛け、銀時は近くに腰をおろした。




「状況が変わったって…どうゆう意味?」

「…実はな、俺ぁ」

「……」

「病気にかかっちまったんだ」

「―…ぇ!?」




庭にいた二羽の鳥が羽根をばたつかせ空へ舞い上がる。高杉は、その二羽を見つめ銀時は、高杉を見つめる。高杉の言っている言葉が信じられないのだ。




「…肺結核だ。医師はこの病気を治療する治術を持ってねぇ…。一番厄介な病なんだよ、こいつぁ。だから、もう治らねぇんだ…」

「……ッ」

「これだけは告げられた。…もう時間はないってよ」

「……だ」




銀時は、高杉の両肩を掴み揺らした。
高杉は、銀時の顔を見つめた。




「嘘なんだろ、高杉!!俺を、驚かそうとしてんだろ!??」

「……違、」

「そうだ、と言ってくれ!!」

「銀、時」

「頼むよ………晋助ッ」

「…何、で…お前がそんな顔すんだよ」




銀時の顔を見れば、顔を歪ませ紅い瞳が微かに潤んでいた。高杉は、悲しそうに微笑み片手で銀時の頬を撫でた。銀時は、その冷たい手をゆっくりと自分の手を重ねた。




冷たい…。
こいつの手は…こんなに冷たかったか??
それに、前より痩せぼそった気がする…。




「……取り敢えず寝て」

「あぁ…」

「俺、当分面倒診るからな」

「なッ、…おい」

「しーんちゃん…銀さんはこれでも君の彼氏だよ??」

「……元、な」





違うからぁぁ!!!と銀時が叫ぶと高杉はキャハハと笑った。銀時は、そんな彼を見ていると病気にかかったなんて嘘みたいであった。




「言っとくけど銀さんは、今でも高杉くんが好きだかんね。大好きだからね!!会わないうちに自然消滅にされてるけど」

「俺ぁ、消滅したと言うよりも縁切っ」

「Be quiet!!!」




高杉が言い終わる前に銀時がそれを遮った。
そして、ゆっくり高杉を寝かせると銀時は台所に向かい桶に水を注ぐ。ドボドボと音をたてながら入る水をぼーっと見つめていた。今の状況が未だに信じられないのだ。
気付けば桶から水が零れていた。キュッと蛇口を閉めるがポトン、ポトンと水が零れる。
蛇口は閉めたはずなのにどうしてだろうか、と思っていると水ではなく銀時の頬から伝う涙であった。銀時は、奥歯を噛み締めた。




どうして、何でこいつなんだよ!!
嫌だ…晋助が死ぬなんて考えられない。
俺から、晋助を奪わないで…。




「……銀、時」




今にも消えてしまいそうな小さな声が後ろからした。そして、背中から暖かなぬくもりが伝わった。後ろから抱き締められたのだ。




「泣いてんのか??……銀時」

「…ッ、何でお前なんだってよ」

「仕方ねぇんだ……だから泣くなよ」

「……ッ」

「俺まで…悲しくなる」




銀時の着流しを皺がつくほど強く握り締めた。高杉から絞り出された言葉は、儚いほど小さかった…。




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