記念リクエスト

□願う
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襖を開けると、そいつはいた。
見覚えのない人物で殺気の凄い奴だ。




「よお……」

「……」




見覚えがない筈なのに…こいつは、まるで、






俺の居場所を……俺を―……
初めから知っているような瞳をしていた。













† 願う †













今日は一段と強い風が吹いていた。
ゴォッと吹く度、廃寺は小さく揺れる。
晋助は、桂、坂本、銀時たちと明日に備えて計画を立て、今帰って来たのだった。愛を育もうよ〜、っと言う銀時を押し退けて。
そして、刀の手入れをして寝ようと思い自分の部屋に入れば、見知らぬ人がいた。
しかも、手には晋助の刀を持っていた。側には手入れをする時に使う物が置かれていた。
どうやら、この男性がやったようだ。




「だ…誰だ」

「変わんねぇな此所も。ま、当たり前か」




刀を鞘にしまうと壁に立て掛けた。そこは、いつも晋助が決まった位置に立て掛ける場所だ。途端に、憎しみに満ちた瞳が晋助を捕らえる。
晋助は、金縛りにあったかのように動けなくなってしまったのだった。




…殺気が凄い。何なんだコイツは?
どうして、俺の部屋に…?




「?……怪我、してんのか?」




晋助は、着流しが血だらけの男性に近寄った。その男性は、俯いている。
傷が深くて辛いのだ、と思った晋助だったがその思い込みがいけなかったのだった。
急に視界が反転し、背中に衝撃が走り少し噎せる。目の前には天井と見下ろしてくる男性




「な…なにして―…」

「クク…警戒心が欠けてるなぁ、おい。我ながら情けない」

「…意味分かんねぇこと言ってねぇで退けよ。大体…誰だてめぇ」




さっきまでとは違う声のトーンで言うが、見下ろしてくる男性はニヤリと笑う。
その笑みに背筋が固まるのを感じた途端、ガシッと首を掴まれた。




「ぐっ、ぁ…」

「誰だって?…クク、俺ぁお前で、お前は俺だ」

「……なッ、に」

「同じ高杉晋助だ。俺ぁ未来のお前なんだよ」

「―……」




晋助はどう返せば良いのか、言葉を発する事が出来ず、ただ未来の自分だと言い張る男を見るしかなかった。
そんな晋助に対し、目の前にいる男性は晋助を馬鹿にするかのように喉で笑った。




「そんな筈はねぇ、っつー顔してるなぁ」

「……ッ」

「じゃあ…コレ言やあ信じるか?」

「……?」




未来の晋助…高杉は、懐かしそうな表情をし瞼を閉じ、話始めたのだった。




「親に見捨てられたお前は松陽先生に拾われ、塾に連れていかた」

「…な!」

「そこで、お前はヅラと銀時に会った。松陽先生に武術を教わり、楽しく過ごしていた。先生が殺されるまでは、な」

「…おま、え…本当に、未来の……」

「そう、お前だ。先生が殺された後、俺たちゃ攘夷戦争に参加した。斬って、斬って、斬りまくったもんだ」




高杉の口から、恩師である松陽の言葉が出て疑いはすっかり消えた。
疑う理由がないのだ。高杉が言っている事は、全て当たっているのだから。




「そこで、お前は仲間を失い片目も失うさ」

「……そうか、俺片目失うんだ」

「へぇ…失望しないのか?」

「その時が来なきゃ分からねぇよ…」

「クク…俺らしい答えだな」




晋助は、ハッと今頃思いついた。未来の自分が何故過去の此所にいるのだろうか、と。
そして、何故押し倒されているのか。




「お前、なんで此所にいんだ?」

「さぁな。気付いたら此所に倒れてた」

「冷静なんだな」

「こんなんで、混乱してたら総督なんて務まらねぇよ」




…総督。
という事は、俺は未来も総督のままなのか。
なら…まだ戦争が続いてるのか?




「つうかよ…退いてくれねぇか」

「……」




晋助がそう言うと、高杉は数秒おいて口元を吊り上げ笑った。
何がおかしいのか、と思っていたがある所に目がついた。それは、血に汚れた着流しだ。先程、高杉が怪我したのだと勝手に思い込んで近付いた結果、こうなってしまったのだ。が、
高杉は怪我など何処にもしていなかった。
そう、返り血なのだ。これ程の量だ…沢山の人を殺めたに違いない。




「この様子だと銀時、とは…まだ上手くやってるようだな。おめでてぇことだ」

「………それがなんだよ」




晋助の返事にピクリッと肩を揺らした。
晋助の首を片手で掴んでいた手を放し、退いてくれるのかと思ったのだが…。
へぇ…と呟き、高杉は喉で笑い始めた。
晋助は、高杉の表情が暗闇に隠れて見えなかった。すると、笑いをやめ鋭い目付きで晋助を見た。
幾ら未来の自分だからと言っても、その鋭さには背筋を凍らす。




「……ッ」

「     」

「…え?……ッな!」




高杉が何か呟いたが、とても小さかった。念の為もう一度、聞き直した直後、素早く帯を解き、晋助の両手を頭上で纏め括りつけたのだ。
あまりの速さに当の晋助は、目を見開き高杉を見つめた。
帯のない着流しは緩み乱れていた。




「な、何しやが……ッッ!」




バキッと鈍い音が室内に響き渡る。
一瞬、何が起こったのかすぐには理解出来なかった晋助だったが、やがて頬に伝わる熱と口に広がる鉄の味で、高杉に殴られたのだと分かった。




「野郎を犯す側がどんなに気持ち良いのか少し興味があってなぁ。…クク、楽しませてくれよ?」

「!…やめッ、……ゃ、だ!!」




高杉は、晋助の着流しを掴むと左右に開き、首元にかぶりついたのだった。




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