記念リクエスト
□たとえば僕が…
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「…たぁくッ、だから言っただろうが!」
「……気持ち、ゎるい」
「馬鹿助。困ったなぁ……おめぇん家まだだし…仕方ない、今日俺ん家に泊まれ」
「……ゎるい、ぎん…と、き」
「気にすんなよ」
銀時の予想通り、高杉は酔い潰れてしまった。お代を払い、おぼつかない足で歩く高杉を支えて、銀時は自分のアパートへ向かう。
「……銀、時」
「なに?」
「……いや、なんでもらい」
「ハハ…らい、ってなんだよ、らいって」
銀時は笑い、高杉も苦笑いしたが俯いた。
気持ち悪いのか、と思った銀時は一刻も早く高杉を休めさせたく足を早めた。
何か話があったのかな?
まぁ、それよか早く休ませなきゃな!
「よっ、と」
カチッと紐を引っ張り電気をつける。
暗闇に電気が灯り、ベッドの上に畳んであった敷布団を敷き、高杉を寝転がした。高杉は、もう一度謝り片手の甲を目元においた。
「良いって言ってるだろ。あ、水飲むか?」
「……ん」
「ちょっと待ってろ」
銀時は台所へ足を運ばせ、グラスに水を淹れる。トポトポと注ぐたびになる音が部屋に小さく響く。
自分のと高杉のを用意すると銀時は、高杉が寝転ぶベッドへと戻っていった。
「晋助…?水持ってきたよ」
「ぁりがと…」
「おう!」
小さな手のひらで銀時からグラスを受け取り、ゆっくり飲んでいく。それに対し銀時は、一気飲みだ。
喉が相当渇いていたのだろう。喉が潤むと、生き返ったぁ。と呟いたのだった。
晋助を見ると、俯いており心配した銀時は覗き込むとギョッとした。
「……」
「ど、どうした?何で泣いてんだよ」
「……ッ」
そう、高杉は泣いていたのだ。
右目の綺麗な碧色の瞳から、ポロポロと流していたのだった。原因が分からない銀時は、戸惑うばかり。
「き……れ、た」
「何?聞こえない」
「き、んとき、と…別れ、た」
「……はあ?!」
「フラれ…たん、だ。アイツ…女、といたん…だ、よっ」
別れた?フラれた?女といた!?
何だよ、ソレ!!
高杉の説明を聞くとこうだ。
会いに待ち合わせ場所に行くと、金時は既にいた。何時間まで一緒にいたのだが、金時は別れを告げ、約束していたのか女性がやってきたのだ。
『金さん!会いたかったわ』
『俺もだよ。会いたかった』
『……金、時』
『あら、だあれこの子』
やって来た女性は、金時に抱き付きキスを交わしたのだった。目の前でそんな事された高杉は目を見開いた。
『この子?俺の「友達」だよ』
『……っ!』
『そうなんだ。君、悪いけど金さんもらってくわね』
『じゃあね、晋助。ありがとう』
高杉にはその言葉が、「さよなら」の言葉に聞こえたのだった。高杉に背を向け歩き出す金時と女性。
『待てよ!…き、金時ッ!!』
そう叫んでも、金時は振り向く事も、立ち止まる事もなく歩いていった。
高杉は、追う事はしなかった。いや、出来なかったのだ。足が地面にベッタリと磁石のように引っ付き放れなかったのだった。
小さくなっていく二人の背中を潤んだ視界で、ただ見つめていた。そして、トボトボ帰る中、銀時に会ったのだった。
あまりの衝撃に銀時は言葉を失った。
じゃあ…アレは―…
『兄貴、仕事入ったの?』
『あぁ。ヅラから電話が来て"えー、せっかく晋ちゃんとラブラブしてたのにぃい、死ねよヅラぁ!"つってた』
― 嘘…!? ―
銀時は、口元を片手で覆った。
薄々、おかしいとは感じてはいた。だが、今まで普通に笑っていた高杉に安心した自分がいたのだった。
帰りに銀時を呼び、何でもないと言い俯いた高杉を気分が悪いのだと思い込んだ銀時は、一体高杉はどんな表情したのだろうか、と思った。その前に、気付かなかった自分に腹が立ったのだった。
「……ッ」
銀時は、堪られず高杉を抱き締めた。その際に、高杉が持っていたグラスが落ち、床に零れたが、それどころではなかった。
自分の兄のせいで、高杉を傷付けてしまった挙げ句、気付いてやれず一人で悲しませてしまった高杉を強く強く抱き締めた。
「……ッぎ、ん…と…きッ!」
「ごめん……ごめんな、晋助」
高杉は、首を横に振りながら銀時の腕の中で泣き続けた。銀時の名を何度も呼びながら。
それに応えるかのように、銀時は強く抱き締めるしかなかった…。
だが、少し複雑な気持ちを抱えたのだった。
泣きながら俺を呼ぶ晋助の声が…、
まるで「金時」と呼んでいるように聞こえた。
高杉が、泣きやむまで銀時はずっと高杉を抱き締めていた。数分後、高杉は泣きやんだのだった。
「なぁ、晋助…」
「……」
「俺、じゃあ駄目なのか?俺、晋助が好きなんだ…誰よりも。…聞いてる?」
「…スー、スー」
「………」
寝てるぅうぅう!!!?
銀さん今、勇気振り絞って告白したのに寝ちゃってるよコイツ!おいぃいぃ!!
ガクッと肩を落とし、高杉を寝転がし掛布団をかけた。うっすらと見える涙の跡を撫で、銀時は苦笑した。
「何言ってんだよ俺。…無理に決まってんのにな」
そう呟いた瞬間、マナーモードにしていた携帯が唸り始めた。
ドキッとしドクドク鼓動を早める心臓に手をやり、携帯をポケットから取り出す。
だが、ディスプレイをみた途端、銀時はピシリッと固まったのだった。
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