記念リクエスト

□貴方がくれた優しさ
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「副長!駄目です、見つかりません!」

「ッんな訳あるか!もう一度、捜せ!」

『はい!』





居なくなる訳ないだろ!
まだ近くにいる筈なんだ!
やっと追い詰めたんだぞ!?それなのに…











高杉の姿がなくなる筈ねぇだろッ!











†貴方がくれた優しさ†











「……」




目が覚ますと、高杉は見知らぬ場所で見知らぬ天井があった。起き上がろうと身を捩るが、激痛が体中を走り動けなかった。
良く見ると見慣れた手つきで手当てがされてあった。




此所は何処だ?
俺は…あれからどうなったんだ?
…あの時より先の事は全く思い出せない。




高杉は、手当てされた傷口を片手で触り「あの時」の事を思い出していた。
















フラフラと橋を渡るの一人の男性がいた。
怪我をしたらしく、横腹から流れ出る血を左手で抑えている。そこだけじゃなく、所々に痛々しい傷があった。
彼奴は、高杉晋助である。過激派攘夷浪士で最も危険な男。
襲撃に遭ったのか、右手には刀を持ち、刀からは生新しい血が垂れていた。傷はその時出来たのだろう。




『…ちっ、…幕府、の狗が…ッ』




油断しちまった…。
幾ら俺でも、大勢には敵わないか。
逃げる、とは…情けねぇな。




高杉は息を乱し、橋をゆっくり渡っていくが、酷い眩暈に襲われ橋の手摺に縋りつく。
キーンっと耳鳴りがする中、複数の足音が聞こえて来る。高杉は、己が来た道を己が今から行くを見る。
目を凝らせば、複数の人影がこちらに向かって来ているのがうっすら見えるではないか。
真選組が来るまでに、動けば挟み撃ちから逃れれる。
高杉は、急いで橋から抜けようとしたが、足を怪我しているうえ、身体が悲鳴をあげ、動ける状態ではなかった。




『……ぐっ』

『いたぞ!…高杉だ!!』

『…ッち』




最悪だ…。どうやら、一本取られた。
奴等の計算だったみたいだしな…。




ドタドタ、と橋を渡り、高杉はあっという間に真選組に囲まれてしまった。
もう逃げ道なんてモノはない。
真選組の部下の間を割り入って来たのは、鬼副長の土方十四郎だ。




『年貢の納め時だ…高杉晋助』

『……ハッ、笑わ、せんな…』

『往生際の悪い奴だな。立ってるだけで精一杯の癖によぉ』

『…る、せぇよ。俺ぁ…』




こんな所で捕まってたまるか…。
俺ぁ、この世界を潰すまで…つかまる訳には




『…ま、だ……た、た…か……え』

『!…お、おい!?』




高杉はグラッと身を傾け、後ろにあった手摺を越えて、真っ逆様に川へと落ちてしまったのだった。












その後は分からない。ただ…、よく生きていたなと正直思ったのだった。
ガチャッとドアが開き、高杉に手当てをしたと思われる人物がやって来た。
見るなり高杉は、目を見開いた。銀色の髪を持ち、死んだ目をしているが、いざとなったら輝かせる男。
そして、かつての想い人…今は敵である存在




「よぉ、目ぇ覚めた?」

「ぎ……銀、時」

「…はぃ?…あのさ、」

「…ッてめぇ、どう言うつもりだ?敵同士のくせに何助けてやがる?」

「……えっとぉ、何言ってんのか分からないんですけど!つうか、まず人の話聞こうよ!」

「てめぇの話なんざ聞きたかねぇよ!」

「……」




目の前にいる銀時に、高杉は痛みに耐えながら、睨み付け反論した。
すると、何処か銀時に怒りの表情が出てきた気がしたのだった。




てめぇが怒るなよ…。
俺を、見捨てた挙げ句斬ると宣言くせに…。
何、助けてんだよ…余計な事を。




スッと銀時の両手が高杉の顔までいき、頭を鷲掴むと、ゴチンッと痛々しい音が地味に響いた。




「……ッ!?!?」

「人の話聞きなさい、と言ってるだろうがコノヤロー!!大体、銀時って誰だよバカアホコノヤロー!」

「病人、にっ、なに、しやがんだ!つうか、自分の名前だろうがよ!腐れ天パが!」

「いやいや、違うから。銀時じゃなくて『八』だし。…坂田銀八だから」

「…ぎ、ん……ぱち?」




Yes、と答えた「銀八」に再び、高杉は目を見開いたのだった。確かに良く見ればいつもと違う服を着ている。そして眼鏡をかけている。
ふざけてかけているのか、と思い手招きをした高杉は、素早く銀八の眼鏡を奪い取った。




「あ"!…何すんの!?何も見えないじゃん!全ての世界がぼやけてんじゃん!」

「ホントに見えないようだな」

「嘘ついてどうすんだよ!?」

「…るせー」




逆ギレ?!と騒ぐ「銀八」に高杉は、眼鏡を掛けさせた。バチッと目が合い高杉は直ぐさま目を逸したのだった。
銀八は、目を丸くさせ、苦笑したのだった。




相当嫌われてるわけね。俺に似た人…。
ところで、この人俺が住んでるアパート近くの路地裏で倒れてたけど、何処から来たんだろ?てか…なんで今時着流し?
それに…黒色の長細い棒みたいなの―…




むー?と考えていると鋭く尖ったモノを銀八は向けられた。それを数秒見つめ、物体が分かったのか、ピシリッと固まったのだった。




「やっぱり刀ぁあぁあ!!?つか、何しようとしてんの、君ぃぃぃ!?」

「苛ついた…軽く殺ってやろうと思ってよ」

「大体、お前ッ…その格好演技部かなんか?!何処の学校だよ!」

「質問の多い奴だな。それに、エンゲキブ、とかガッコウってなんだよ」

「……」




どうすれば良いー!!?
その反応に銀さん、なんて返したら良ーいー!!?




江戸には演技部、ましてや学校などない。
高杉が江戸時代から来たなど、銀八には知る由もない。




「もういいな?覚悟しろよ…銀時ぃい」

「銀八だからぁ!どんだけそいつの事恨んでんだよ!?て、てかそれ本物!?」

「あ?当たり前だろ」

「……あの、君どっから来た?」

「……………江戸」




エド……EDO…?
江戸ぉおぉぉおぉ!!!!?




ずざざざっと銀八は後ろへ後退り。
信じられないのだ。…だが、高杉が嘘をついているようには見えなかったのだった。
高杉も、そんな銀八を見て溜め息をつき刀を鞘に戻した。




コイツぁ、銀時じゃねぇんだ…。
何カリカリしてんだぁ…俺ぁ。馬鹿みてぇ。




「名前…言ってなかったな。俺ぁ高杉晋助だ」

「…高杉晋助。晋作じゃなくて?」

「ナメてんのか、てめぇ。なんだよ晋作って」

「わぁあ!!悪かった、悪かった!だから、刀しまってぇえ!!」




手をブンブン振り、高杉に刀を終うよう銀八は叫んだ。仕方なく高杉は鞘に再び刀を戻したのだった。




コイツ怖ぇよぉお!
とんでもない奴を拾ってしまった!!




「それよか、俺ぁ戻る。万斉たちが心配するだろうからな」

「帰るって無理だと思うよ…だって、此所君の世界の江戸じゃねぇもん。江戸時代なんて、すんげー昔だからさ」

「は……?」

「恐らく、タイムスリップしてるみたい」

「………」




高杉は無言になり、起き上がってフラフラと窓側に歩いて行くと、ぶら下がっているカーテンを開けた。
広がる風景は、江戸と大違いであった。どうやら銀八が言った事が本当なのだと高杉は判断したのだった。




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