記念リクエスト

□君からの恩返し
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『俺、万事屋やってんだ。何か困った事あれば遠慮なく来な』





【万事屋】 坂田 銀時





銀髪の男は名刺を渡すと礼を言う前に背を向け、風がフワリと銀髪を靡かせる。その男は夕日に照らされた道を歩き去っていった。
夕日が沈む頃の事だった―…。












†君からの恩返し†















「……痛ッ!」




いつの間にか寝ていた高杉は段ボール塗れの中、段ボールの上に不安定に置かれていた本が高杉の顔に落下。
本起こされ、おまけに顔面ときた。舌打ちをし、潤んだ瞳で本を睨んだ。
決して本が悪い訳ではない、その場所に起き、寝返りする際に段ボールを蹴った高杉くんが悪いのだ。




「……久し振りに見たな。あの夢」





寝ぼけ眼をこすり、くぁっと可愛らしい欠伸をした。そして、所々破れている紙を取り出した。そう、あの時貰ったあの名刺だ。













『やば、こんな時間だ!父上にまた、しつこく言われる!あれは、御免だ』




箱入り息子として育てられた高杉は、少しでも帰るのが遅れたら家中パニックになる。
悪い時には、晋助がいないんだ!知らないか?と近所に聞き回る程だ。
それが、恥ずかしくて耐えられない高杉は遅れまいと早くに切り上げるのだが、今回は友人と遊びすぎて夕日が沈みかけていた。




あの道…通るか?
それなら大周りしなくても早く着くし。




高杉は、父親に18歳になっても言われ続けている事がある。それは路地裏だ。
通っては駄目だと小さい頃から言われている。罪悪感はそれなりにあったが、高杉はそこを通ってしまったのだった。




何が危ないか分からないけど5分程度歩いたら家だし大丈夫だ、と高杉は思っていた。
だが、現実はそんなに甘くない。その路地裏は、天人の群れだったのだ。
まだ、天人たちは気付いておらず高杉は、踵を返そうとした途端、カランッと音を立てた。
足元にあった空き缶を蹴ってしまったのだった。勿論、天人に気付かれた。




『おや?こりゃ、別嬪なおなごだ』

『こっちに来て遊ぼうぜ?』

『震えなくてもいいよ、お嬢ちゃん』

『お…女じゃない!俺ぁ男だ!!良いからそこ退け!通りたいんだッ』




ポンッと肩に置かれた手を高杉は、振り払った。ただ、此所を通りたいだけなのに、女に間違われるなんて屈辱だと高杉は思ったのだった。




『男だったのか。ま、別嬪は変りない』

『てめ!まだ言う、―…ぁ!』




グイッと引っ張られ衝撃に襲われる。
息が詰まり咳き込む。瞼を開けると天人が見下ろしていた。押し倒されたのだと理解した途端、恐怖が押し寄せてきた。




『さぁて、どうしてやろうか?』

『―……ッ』




豚顔に首筋をザラリと舌で舐められ、高杉は小さな声を出した。初めて感じた、その気持ち悪さに体が強張る。




『一人相手に何人がかりですかコノヤロー。何?皆さん発情期?いやだ、キモーイ』

『何だ、てめぇは!!やっちまえ!』

『きゃー、暴力へんたーい』

『反対だボケぇえぇぇ!!!』




変なのが来た、と高杉が思っていると、高杉を抑えている豚顔以外の天人が銀髪の男に襲いかかった。高杉は、見ていられず瞼を固く閉じた。
聞こえてくるのは、殺り合う音と叫び声。
ぴたり、と嘘のように静かになりおそるおそる瞼を開けると銀髪の男が木刀を肩にやり、立っていた。




『その子放してやってくれね?じゃねぇと、コイツ等のようになるぜ?』

『っおい!いつまで寝てんだ、行くぞ!!』




銀髪の迫力に、高杉の上に跨がっていた天人は尻餅をついた。銀髪の男が、指をさす方向には先程、彼に殺られた天人たち。
銀髪の戦いっぷりを見て、勝ち目がないと分かったのか、微かに声を裏返し、倒れている天人に呼び掛け尻尾巻いて逃げていった。
高杉はその情けない後ろ姿を見つめていた。
すると、手を差し伸べられ彼を見ると、大丈夫?っと優しく笑い掛けてきた。
高杉も自然とその笑みにつられ笑い、差し伸べられた手に手を取り礼を言ったのだった。




『子供が遅くに此所通っちゃいけないよ』

『子供じゃねぇよ、これでも18だ』

『おや。銀さんの三つ下だね。……18に見えねぇけど』

『おい、今さり気なく小さな声で何か言わなかったか?』

『気のせいだろ♪』




口元に手をやり、笑いを堪える銀髪に高杉は、失礼な奴だと思い、ムスッとした表情をしてると何かを差し出された。
小さな紙で首を傾げながらもソレを受け取る。ボフッと手を置かれ頭をグシャグシャと撫で回したのだった。




『ゎッ…ちょっ…、何すんだよ!』

『まぁ、アレだ。アレ』

『……?』

『俺、万事屋やってんだ。何か困った事あれば遠慮なく来な』




それが、万事屋・坂田銀時との出会いだった。
あれから月日は流れ、高杉は22歳になり、礼を言いそびれた事を思い出し、万事屋に訪れたのだがその場には万事屋の面影がなかった。
下で営業しているスナック屋に入ると老婆がいた。理由を言うと老婆は…、




『銀時かぃ?アイツは居なくなったよ。紙一切れ置いて出てっちまった』

『……』

『家賃はちゃんと払っていったし、精々してるんだけどさ』




そう言う癖に、煙草を吸う横顔は悲しそうだった。余程、親しみがあったのだろう。




『……その空き家使ってもいいか?』

『…良いさ。あたしゃ、家賃貰えばそれでいいんだ。だけど、埃だらけに部屋はそのままだよ?』

『使えるモノはそのまま使う。使えないモノは捨てるまでだ…』




勝手にしな。と言われ、高杉はその言葉通り勝手にさせてもらった。
二階へと上がり、家に入る。確かに、埃が舞っており家具とかはそのままだ。高杉は、入るなり窓を片っ端から開けた。
布団とか使えそうにないモノは捨て、何時間掛けて綺麗にしたのだった。




クローゼットからは、見覚えのある服を見つけた。黒色に赤ラインがある上に黒色のズボン。そして、白い着流しに立て掛けられた木刀。




…あの人が、着ていたモノだ。
それに、木刀まである。




高杉は、父親に剣術を教わってきた。
それなりに、強い。
そして、高杉は心に決めたのだった。
銀時のように万事屋を開き…銀時を探し必ず礼を言うという事を。
万事屋を開くと従業員が二人やってきた。
河上万斉、来島また子の二人である。









「晋助、いい加減に段ボールを片付けるでござる。何ヶ月も経った故に今日は依頼であろう」

「片付けたくても片付かねぇんだもん。片付けといてくれ。俺、ちょっくら行ってくっからよ」

「え。っちょっ…晋助!?」




そう、高杉は今から依頼があるのだ。
万斉に部屋の片付けを押し付け木刀を腰に差すと、呼び止める万斉の声を無視して万事屋を後にしたのだった。




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