長編

□第2話
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「きゃあぁあ!!し、晋助様…どうしたんっスか、その怪我あぁ」

「……別に」










 第2話










「…また子、晋助様は他校の生徒と喧嘩したんだよ。その時に出来てしまった傷だ」

「……んなっ!ホントなんすか?!晋助様!!」

「…ちっ、余計な事言うんじゃねぇよ。一馬」




家に帰れば玄関で護衛たちに出迎えられるが、高杉を見て固まる。そうなるのも当たり前だろう。頬には痣、服は微かに汚れがある。
女性の護衛の中で、一番頼りのある金髪の女性・来島また子が心配そうに高杉に近寄る。玄関にいる護衛たちに喧嘩したのだとバレて、バツが悪そうな表情を顔に表す高杉であった。
心配そうに見つめていたまた子だったが、状況を教えてくれた一馬に顔を向けた。その瞳は鋭く光っていた。
そんな瞳で見られた一馬は、また子が何を伝えたいのか理解でき、目を逸らすように目を泳がす。




「…なんでアンタが付いていながら晋助様を怪我させてるんすか!?情けないっす!!」

「…わ、悪い。少し目を離した隙に、晋助様が居なくなってしまって」

「言い訳無用!!」

「そのくらいにしとけ、また子」




一馬の胸倉を掴んで、揺さぶっていたまた子の手が止まった。
高杉が止めたからだ。また子は晋助様が言うなら…と渋々、一馬の胸倉を離した。高杉はこの高杉財閥の大切な跡取り息子。その息子を守るのが護衛たちの役目。
目を離して見失ってしまったとしても一馬は高杉を見つけ出し他校の複数の生徒から高杉を助けた。それは事実だ。
高杉が頬の痣で済んだのが何よりの証拠だろう。高杉自身は、余計な世話だ。といじけているが内心少しは…本当にほんの少し一馬に感謝している。自分のために見つけ出し助けてくれた。
それだけで嬉しかった。もちろん、心配してくれたまた子たちにも嬉しさを感じた。




「晋助様、手当てするッス!こちらへ」

「…いつも悪いな、また子」




少し顔を赤らめ、また子は小さく首を左右に振り、いえ。っと呟いた。高杉は靴を脱ぎ、スリッパを履くと側にいた護衛の者に鞄を預ける。また子の後ろを付いていくのに、すれ違う護衛たちに、おかえりなさいませ。と言われ高杉は手で合図する。
ただいま、と…。




…敬語で言われんの、やっぱ慣れねぇ。
敬語はよせと前々から言ってんのに聞きやしない。




「それじゃ、失礼します」

「……っ」




消毒液で湿った綿が傷付いた口元に触れるとズキッと滲みり、高杉は顔を歪ました。また子も咄嗟に綿を離したが、ゆっくりと綿を口元に再び当てる。
大抵できたら絆創膏を貼り、痣になった頬に湿布を貼った。かすり傷などにも消毒液を振り拭き取ると手当て終了。
せっせと片付けるまた子を見つめて、高杉は目を細めた。




「また子…ありがとな」

「いえ。私たちは晋助様を守る側なのに…すみません」

「こんな傷どぉってことねぇよ。…お前等はいつも助けてくれるじゃねぇか」




それには感謝してんだ…。と呟き高杉は腰をあげ、部屋の奥に歩み出した。それを目で追うまた子…。
その背中を見ているうちに、悲しくなり視線を外した。




あんな小さな背中なのに…。
晋助様は普通の人じゃ抱えきれない程の"何か"を抱えている。
私じゃ、その荷物を軽くさせてやれない。
なんて…無力なんだろう。




そう思っていたまた子の耳に綺麗な音が聞こえた。ポロン…ポロン、っと。心が落ち着くような、そんな音。
あ…ピアノだ。なんて事を頭の中で思った。
この部屋の奥にはピアノが一台置かれている。高杉の母が好んで購入したものだ。デザインも考え作ってもらったらしい。普段と変わらないピアノだが、綺麗な模様が彫り描かれている。




〜♪〜♪




演奏が流れる。
ピアノの音が部屋に響き、その部屋から音が漏れ、廊下へと響いていく。
心が落ち着くその曲は、昔からいた護衛たちは知っている。周りの皆が好きなこの曲を。
そんな中、ガチャッとドアが開きそこには一馬が立っていた。彼は高杉に一言謝りに来たのだろう。しかし、彼が高杉に油に火を注ぐような一言を言ってしまうとは思いもよらなかったに違いない。




「これは、奥様が弾かれていた曲ですね」

「……ばっ、」




ー…バァアァァン!!




ピアノを叩きつけたような音が響き渡った。
先程までの心地良さはどこへやら、今は重たい空気が流れている。また子は、敢えて言わなかったのにと手を額に当てた。一馬もしまった。と口を片手で覆った。
高杉は両親の話となると無表情になってしまう。その時の目は鋭く光っていて怖いものである。それ程、両親を好んでいない理由があるようだ。
今は俯いているが不機嫌なのには違いない。背中から黒いオーラが溢れだしている。クルッとこちらに向き、また子と一馬の元へ歩きだす。
一馬は、咄嗟に頭を下げた。




「し、晋助様すみません。俺は…」

「良い。気にしてねぇから…それに悪いのはお前じゃないし」




一馬の前で止まり、高杉はそう言い、スッと二人の横を通りすぎて行った。背後でドアの閉まる音がすると二人は息を合わせて溜め息をついた。
あんたホント馬鹿ッス。とまた子に肘で横腹をどつかれた。一馬は苦笑いをこぼして後頭部を掻いた。




「さて、私は屋敷の周りの見回りに行って来るッス。一馬先輩は晋助様の元へ」

「…あぁ。悪いな」




バッとドアに向かい一馬は高杉の部屋へと走っていった。一馬は、護衛たちの中で唯一高杉を理解しているし、高杉も一馬を信用し頼っている。




あの人は、周りの者より晋助様を知っている。
晋助様の弱味を知っている…。
一馬先輩にしか出来ないことで…。
私、じゃダメなんだ。




また子はグッと手を握りしめると踵を返して見回りに行ったのだった。








「いつまでそうやってんだよ、一馬」

「…ですが」

「俺がもう良いって言ってんだから良いだろ」




顔あげろ。と言われ一馬は渋々顔を上げた。前には窓際に座って外を眺める高杉がいた。沈黙が流れ、気まずい空気に一馬は耐えていた中、高杉がぼそりと呟いたのだった。




「俺のクラスの担任…変な奴なんだ」

「……ぇ?」




どうやら学校の話をしているらしい。
高杉が学校の話をするのは珍しいことである。




「昨日といい今日といい、ワリと俺に関わって来やがる。授業サボってんのに、必ずその場に現れんだ。場所を変えてもな…」

「……嬉しそうですね」

「クク…馬鹿言え」




微笑んで高杉にそう言うと肩を揺らしながら返事を返し、余計な世話だ。と加えられた。未だ笑う高杉を見て、一馬もつられて笑った。
また暖かな雰囲気に包まれつつあったのだった。




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