記念リクエスト

□何よりも、誰よりも…
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「…銀さん。良かったんですか?」

「何が?」

「何がって、高杉さんですよ!!」




バンッと机を叩くと先ほど万斉と神威が飲んでいたコップが揺れ、一つだけ倒れる。新八の行為に定春の側にいた神楽は眉を八の字にさせ定春に抱きついており、重たい空気が三人と一匹を包み込む。
こうなったのは数分前のこと。
銀時は頼みに来た三人の依頼を断ってしまったのだ。誰もが目を見開いた。また子が銀時の胸倉を掴み、銀時を揺さぶり反論するが銀時は決して首を縦に振らなかったのだ。
それに頭にきたまた子は銀時の頬を殴ったのであった。銀時は派手に吹っ飛び壁に強く背中を打った。まだ殴りかかろうとするまた子を万斉が止め、怒りで染まった瞳で銀時を睨んだ。
また子を引き摺るように玄関に向かう二人を神威は一瞥すると、銀時に視線を向ける。にっこりと笑って二人に付いて出ていってしまった。笑っていた神威だがなんともいえない殺気に近いオーラが溢れ出していた。
そして、今に至る。




「……」

「なんとか言って下さいよ!!銀さんにとって高杉さんは……っ高杉さんは、大切な人じゃないんですか!?」

「……だからだよ」

「……ぇ?」




あー痛ぇ、手加減なしだなあのじゃじゃ馬娘。と呟き、また子に殴られた頬を擦る。今は痣となり少し腫れている。はぁっと溜め息をつくと、首筋に手をやりポリポリと掻いた。
意味が分からない新八は眉を寄せて首を傾げる。




「銀さん…どうゆう」

「依頼受けるもんでもねぇし、依頼料ももらう必要もねぇ。俺はアイツを見つけ出すのに、依頼では動かねぇ…俺は俺の意志で動く」

「……銀さん。それじゃあ」

「晋助、探し出すアルかっ!!」

「…あぁ。早速動いてみるわ」




玄関に向かい靴を履いて、さて行くかと立ち上がれば目の前には二人の子供とデカイ犬がいた。
新八等は既に靴を履き、出入りに口立っていた。




「お前らは此処にいろ。俺だけで良いから」

「イヤです!!僕たちも行きます」

「…でもよぉ」

「晋助は、銀ちゃんのアル。納得いかないけど」

「……ぉい」

「だけど、晋助は私たちの家族同類ネ!」

「……たく、仕方ねぇな。行くぞ」

「「おぅ!!」」




二人の真剣な目に負け、銀時は渋々承諾したのだった。神楽は定春に跨がり、銀時は原チャリに跨がり新八は銀時の後ろに座る。
銀時が原チャリで走り出すと定春は銀時たちについて走り出した。運転しながら銀時はあることを思い出していた。その者の言葉が引っ掛かって仕方がないのだ。




はぁ、こいつ等連れていくの抵抗あったんだけどなぁ。
まぁ、あそこまで言われると断りにくかったし。









『気を付けた方がいいよ』

『……は?』

『ヤな匂いがするからさ』

『……?』

『まぁ微かだからだけど…一応警告しといたよ』







神威からの言葉。
そう、あの時向かい合った際、神威は銀時にそう呟いたのだ。イヤな匂い…つまり裏を返せば「危険」な匂いがするという意味なのだろうか。と銀時は頭を抱えていた。




深く考えすぎか…?
アイツも「微か」っつったし。
………あ゙ぁぁぁっ!!
今はどうでも良いっ!
今は高杉だっつーんだよ!




運転をしながら辺りを見る。
歩行者が通る中に、好きな人の姿を探す。何日間前に行方を眩ました人…。




「っ何処にいんだよ……晋助ッ」

「……銀さん」




小さく呟いた銀時だったが、その言葉は新八の耳にちゃんと届いていたのだった。銀時に慌てたような感じには見えなかったが、銀時なりに新八たちに見せないようにしていたのだろう。
銀時が調子を崩してしまえば、子供たちがもっと暗くなってしまうと感じた銀時の小さな心遣いであった。









「……は、ぁ」




陰茎が後孔から抜かれ、高杉は体を震わせた。
激しい息遣いをしていると、次の快楽がこないため、今日の行為は終わりのようだ。涙でぼやけた視界で古びて穴の開いた木々の間から見える夕日を見つめた。
そこで、あぁ…もう夕方なのか。と高杉は確信したのだった。そう思っていると前髪をグイッとあげさせられ、小さく呻くと口に柔らかいモノが触れられる。ぬるっと口内に相手の舌が入り込み高杉は眉を寄せた。
身を捩る高杉をやっと解放され、銀色の糸をひいて切れた。ごほごほっと噎せる高杉に不気味な笑みを向け、前髪を離す。
ドサリと畳に倒れ、上から言葉がふりかかる。




「今日も良かったぜ。淫乱総督さん」

「……っ」

「そんな寂しそうな目ぇしなくても、また来てやるよ」

「ハハハ、だなぁ。そうゆう事だ。…じゃあな」




くそ…くそくそっ。
殺してやる…絶対ぇ殺してやる。




倒れている高杉に元着ていた着流しを掛け、背中を向けた侍たちを、高杉は唇を強く噛み締め、睨み続けていた。口内に血が広がり、鉄の味がする。
だが、高杉にとっては好都合。先程の気持ちが悪いキスを血の味が少しずつ揉み消してくれるからだ。
スーッと襖の閉まるが、高杉は未だその先を睨み続けていた。悔しさ、情けなさが高杉を襲う。襖から目線を畳に向け、そのまま額をゴツンッと勢い良く叩きつけた。何度も何度も。
部屋中にその音だけが響き渡る。何度目かで高杉はその行為をやめ、肩で乱した息を整えていた。視界がぼやけ、涙が頬に伝う。




会いたい…会いたい。
だけど…会えない。
これは、俺が望んだことなんだ。
逆らう訳にはいかない。
いや…逆らっちゃいけねぇんだっ。




「…と、…きっ……ぎん……―…銀、時っ!!!」




いつも高杉が会いに来るとしつこい程、高杉の側にいた銀時。抱き締めたり、キスしてきたりと。それに、しつこい。と高杉はされる度に言っていたが本当は嬉しかった。幸せを感じていた。
それはいつまでも続くものだと思っていたから気づかなかったが、いざこうなると銀時の仕草が恋しくなる。
銀時に触れたい。銀時に触れてほしい。
銀時に強く抱き締めてほしい。
銀時の腕の中で暖かさを感じたい。
銀時に優しくキスされたい。
などの思い溢れる感情が膨れ上がる。




……銀時。










「………見つからねぇ」

「そうですね…一体何処に行っちゃったんでしょう。高杉さん」

「…晋助ぇ、何処にいるアルかぁあ」




此処は、とある公園の中。
銀時たちは少し休む為、公園のベンチに座っていた。頭を抱える銀時の隣に新八が座り、神楽は定春の上に、ぐてーんっと伸びている。下にいる定春も舌を出し、神楽同様伸びているようだ。
昼過ぎから探し始めたが、何の手掛かりもなく夕方となってしまったのだった。手を組んでいた銀時は無意識に爪を立てていた。肉に爪が食い込むほどに。




くそ…嫌な予感がする。
何で連絡も何にも寄越さねぇんだよ。
嫌な方向ばっか思っちまうじゃねぇか。
マジ、心臓に悪いって…。




銀時は、はぁっと何回目か分からない溜め息をついた。自分の手のひらを見つめ、グッと握りしめる。
そして強く瞼を閉じた。浮かぶのは高杉の姿。目を細めて自分の名前を呼ぶ愛しい人。




俺はまた…取りこぼしちまうのかよ。
いやだっ…アイツだけは失いたくない!




「……そろそろ行くか」

「はい!!」

「はいヨ!」




そう言って歩き出そうと立ち上がると、目の前に見知らぬ者たちが立っていた。笠を深く被っており、数は五人。ただの通りすがりだろう。そう思い歩いていく。
横を通りすぎ、路上に置いてある原チャリまで足を運ぶが、その足が止まった。側にいた新八もである。理由は、背後から唸り声が聞こえたからだ。それは聞き覚えのある定春のものだ。
神楽が側で首輪に繋がる紐を引っ張るのだが、珍しく定春が神楽の言うことを聞かないのだ。ただただ、五人のものたちに威嚇し唸っている。




「さぁだぁはぁるぅぅっ!動くアル!駄々捏ねてる場合じゃないアルよーっ!!」

「駄々!?神楽ちゃん違うから!」

「こぉら、さーだはーるくぅん。その人たち食っても美味くねぇぞー」




そう定春に吹っ掛ける銀時だったが、次の瞬間に己の目を疑った。神楽の側に近い者が腰に刺さってあった刀に手を当ててるではないか。
神楽と銀時たちの距離はそう長くはない。しかし、だからといって間に合う距離でもないのだ。当の神楽でさえ定春を引っ張るのに必死で気づいてないのだ。




―……まずいっ!




「神楽!!早くこっちに来い」

「でも、銀ちゃん、定春が」




銀時がそう叫び、神楽は困ったように眉を下げて銀時たちに視線を向けた。それを合図とし、一人の者が刀を素早く取り出し神楽に襲いかかったのだった。




「……神楽っ!!!」




真っ赤な血が宙に舞った。










ススーッと襖が開き、高杉は顔をあげた。その瞳は日にちが経つにつれ、濁っていく。高杉の瞳は光が消えかけつつあったのだった。
ギロッと目の前に立ちはだかる一人を睨み付ける。その者がリーダーを気取っている。そいつの汚ない手口で高杉は油断し捕まってしまったのだった。




「フフフ…良い姿になっているではないか。さぞ可愛がられているのだろう」

「………なんの、用だ」

「悲しいな…我々人間は脆くそして儚く散る。そして軽々と約束を破ってしまう生き物だな」

「……何が言いてぇ」




壁に身を任せ、膝に着流しを掛けている高杉は睨みながら言葉を言い放つ。しかし、その者は意味が分からないのかと鼻で笑うと高杉を見下す。
その目を見ているうちに高杉は、徐々に目を見開き始めた。




人間は脆くて儚く散る…。
人間は約束というものを破る…。
………まさか、っそんな!




嫌な汗が頬に伝う。
キーンッと耳鳴りがし、頭がズキズキと痛み吐き気がする。そして、そんな脳裏に浮かぶ銀色の髪を持つ人。
誰よりも大切な人。




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