短編
□思いは一緒
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「ゔーーーっ」
「なあに唸ってんのよ、ナツ」
「ゔーーっ」
「ルーシィじゃ今のナツを止められないよ、プププッ」
「お黙り、オスネコ!なら、相棒のアンタが何とかしなさいよ」
「あい!オイラにも無理だよ。…ウパッ!」
「あんたねぇ…」
ナツは、肺一杯に酸素を吸い込むと、大きな溜め息をついて二階にある大きな窓をボケーッと見つめた。
窓をよく見ると、ぽつぽつと窓に雨がぶつかっていた。机に頭を伏せ、雨降りだしたなぁ。という事を頭の隅で思った。
二週間と四日。
正確には十八日、アイツに会ってない。
たぶんもうすぐ俺死ぬ。
いや…今すぐ死にそう。
アイツ不足であの世逝き…。
瞼を閉じ、思い浮かんだ彼の名前を心の中で呼ぶ。
会いたい。会って触りたい。声が聞きたい。
そんな思いがナツに駆け巡る。
あ゙ー、いつ帰ってくんだよ!
会いてぇよ…グレイ。
【思いは一緒】
最初はそんなに酷くなかった雨だったが時間が経つにつれ、雨は激しくなり窓を叩きつける。その音を聞くなり、雨の酷さを物語る。
ぐてーんっと机に項垂れるナツに可愛らしい声でナツを呼ぶ声が耳に入る。そちらに目を向ければ看板娘のミラジェーンであった。
渋々その場から立ち上がりフラフラと近寄る。
にこにこと笑い、ミラジェーンは近くに来たナツにラクリマを指差す。意味が分からないナツは眉間に皺を寄せて、なんだよ?と問う。
ミラジェーンは、良いから良いから。と言いラクリマの前にナツを立たす。疑問符を抱えながらラクリマを見ると…。
『呼ばなくて良いって言ったじゃねぇか、ミラちゃん』
「ぐ…グレイ!」
そう、そのラクリマにはグレイがいたのだ。
クエストが済んだので、今日中に戻るとの事でミラジェーンに連絡をしたのだろう。久しぶりに見たグレイに心が騒ぐ。
「グレイ、大丈夫か?怪我とかしてねぇだろうな?」
『してねぇよ。そんな柔じゃねぇよ、バカナツ』
バカナツ。
いつも言われたら、んだとコラァ!と反発し、喧嘩へと向かうのだが、久しぶりに言われたら嬉しくなる。
久しぶりの愛しい人に大好きな声で言われたら誰もが口元を緩ますだろう。いつもと違うナツに、気味悪い。とグレイが言うとナツは、へへ。と笑って頬を掻いた。
「……」
『…なんだよ』
「変なことされなかったか?相手とかに」
『……馬鹿にすんなよ、ナツさんよぉ』
「間が気になるぞグレイ」
『……………少し抱きつかれ、』
「そいつ殺す!!!今からそっちに向かうからそこ動くな!!」
『落ち着けよバカ炎!後ろから動き封じようとした奴が居ただけで、そいつはもう俺が倒したからよ!』
「俺の気がすむかよ!グレイは俺のモンで…俺のモンで…そんで、そんで…俺のモンなんだよ!!」
『あー…うん。お前の気持ちは分かった』
棒読みかよ!とナツは叫んだ。
ナツにとっては重要な事であるというのに。
しかし、よくよくグレイを見れば頬を少し赤く染めていた。
そんな彼が可愛くて仕方なかった。
『……あ』
「…どうした?」
『……悪ぃ、ナツ。列車がそろそろ出っから切る』
「んだと?!俺より列車かよ?!」
『…………あのなぁ』
ナツの言葉にグレイは呆れた表情を見せた。
ナツはそんなグレイに、なんだよその表情はっ!とガアッと牙を剥き出す。
『俺が少しでも早くそっちに帰って来なくて良いんなら、』
「帰って来い!今すぐ帰って来い!!つうかラクリマ越えて戻って来い」
『お前どんだけだよ?!そんなん出来たら苦労しねぇよ』
憎たらしく言った後、グレイはハハッと笑った。
その笑顔にもナツは幸せを感じる。
「好きだ、グレイ」
『急に何言ってっ…バカじゃねぇの、既にバカだけど』
「グレイ」
『俺は嫌いだ』
「真顔かよ…」
ムスッとするナツに、くつくつとグレイは笑った。
笑った為、涙で潤んだ瞳を向けたのだった。
『嘘だ。その反対』
「……お前本当可愛いよな」
『は?!…なん、…もう切るぜ!』
「かっかっかっ…照れたか?」
『…死、』
ナツに反論しようとしたグレイだったが何かによって遮られたのだった。ラクリマに映っていたグレイだったが、ある女性が目立った。
彼女はグレイと共にクエストに出掛けたジュビアだ。
「なんだよ、俺はグレイと話してたんだよ!」
『もう列車が出る時間なんです!グレイ様とジュビアの時間を邪魔しないで下さい!』
「んだとコラァァア!」
『グレイ様は貴方じゃなくジュビアを!誘ってくれたんです』
『いや…たまたまナツがいなかっただけで…』
「畜生ぉぉおっ!!」
ナツはジュビアの態度に床をダンダンと蹴った。
にまにまと笑うジュビアに悔しくて悔しくて堪らなかったのだった。グレイの言う通り、誘おうとしたのは実際ナツであったのだがナツが丁度居なくて仕方なくジュビアを誘ったのだ。
グレイは、はあっと溜め息をつきジュビアを退かし、再びラクリマに現れる。
『まあナツ…今から帰る。一番先にお前に会いに行くから』
「おぅ…絶対だからな」
『ああ…じゃーな』
そう言ってラクリマからの通信は切れ、ラクリマからなにも映らなくなった。側にいたミラジェーンに感謝を言い、ウキウキの気分で座っていた椅子に戻る。
机の上には魚を頬張るハッピーがいた。
「ナツゥ…元気になったね」
「おうっ♪グレイが帰ってくんだ」
少しの会話。
思い出すだけでナツは顔がにやけたのだった。
ハッピーは、やれやれ。と首を横に振った。
会いたい。あの細い体をぎゅっとしたい。
触りたい。キスしてぇ。
「あー…えっちしたい」
「ナツゥ…二階から飛び降りて頭打って来くればぁ?」
ハッピーが冷たい目で相棒を見た。にっこり笑って、そう言うハッピーに、酷ぇ。と言う。
ナツは頬杖をつき、ハッピーの鼻にデコピンを食らわす。
仕方ねぇだろ。
会いたてぇんだし、エッチだってお預けだった。
十八日間も。
待ち遠しい。
そわそわする気持ちを抑えながらナツはグレイの帰りを待つのだった。
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