短編
□大切な者はなくなって大切だと気付く
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「…銀時ィ?」
只今高杉は万事屋の中。居間を見渡し万事屋の持ち主の姿を探すが見あたらない。今日は、会う約束をしていたのだ。
「仕事、でも入ったか??」
ドサっとソファに座り煙管を取り出す。銀時の匂いで充満した部屋にいる高杉は、少し嫌な予感がしていた。
―ガラッ
銀時が帰って来たのか玄関を覗いて見ると予想は外れ万事屋の従業員、新八と神楽であった。二人は、高杉に気付くと顔を輝かせたがすぐにションボリとしてしまった。
「どうしたんだよ??」
「「……」」
「銀時は一緒じゃないのか?」
「…いないんです」
「……は?」
「いないんですよ、何処にも」
「銀ちゃんが消えちゃったヨぉ」
しゃがみ込む二人を見て高杉は頭が真っ白になった。銀時がいない??それだけが頭の中にあった。
居なくなっただと…?!
一体何処へ行ったっていうんだ…。銀時…。
†大切な者はなくなって大切だと気付く†
高杉は、万事屋から飛び出し銀時を探しに行った。余りにも焦っていた為、笠を忘れて来た。新八からいつから居なくなったのかと聞くと一昨日の依頼からだという。
「…銀時」
あの馬鹿…俺との約束をすっぽかした事も許しがたいがあいつ等を置いて何処かへ行くなんざ許さねぇぞ!!
高杉は、下唇を噛み締め江戸を走り回った。
新八と神楽は、いつも一緒にいる銀時の事が好きだ。その銀時がいきなり居なくなると焦るに違いない。二人で探し出そうと毎日探していたようだが見つからず高杉に会うと泣き出してしまったのだった。そんな二人をほっておけなかった高杉は万事屋から出た。
…似ていたんだ。あの時の俺に。
銀時が攘夷戦争から居なくなった時の俺に。
心にポッカリと大きな穴が開き、寂しさ、憎さ、孤独さに襲われた事をよく覚えている。
「何処行ったんだ……よ」
一瞬目を疑った。人込みの中に黒い服を着た男の隣に探している銀髪の男:銀時を見つけた。だが、銀時は真選組鬼副長:土方十四郎と一緒にいた。高杉に塞がれていた心に少しの穴が開いた。
土方が少しの間ビルの中に入るのを見計り、高杉は銀時に近付いた。
「銀時!!てめぇ、今まで何してんやがった!?」
「…え!?」
「あいつ等を置いて!!どれだけ心配させれば気が済むんだよ、てめぇ!!あぁ?!」
「…だよ??」
「あ??」
「…誰だよ??」
「……え」
一瞬高杉は、銀時の顔が真っ白になった。
銀時……じゃない??
咄嗟に浮かんだ言葉。そして、愛人からの冷たい言葉が針のように突き刺さった。高杉は、ふらつく足に力を入れ倒れないよう踏ん張った。銀時の胸倉を掴み高杉は叫んだ。
「冗談はやめろ銀時ッッ!!」
「冗談も何もてめぇ誰だよ??気安く触るんじゃねぇよコノヤロー!!!」
「ぎ…銀、時」
まるで別人のようになった銀時は、額を包帯で巻き頬などに絆創膏などで色々手当てされていた。何より、今までに見た事ない表情で高杉を見ていた。冷たい言葉、冷たい目付き。
「という訳で誰かと人違いだから〜」
「待てよ、銀―…」
「お前、五月蠅い」
「…―ッ」
咄嗟に殺気を感じ取り高杉は、刀を鞘から素早く抜き取り振り返ると刀とぶつかった。
「よぉ、高杉」
「……土方」
「何でてめぇがいる??」
「てめぇこそ何でコイツといる…」
両者共、距離を取ると周りにいた人々が騒ぎだす。高杉は、それをウザがり舌打ち一つしたが今は目の前の事に精一杯。
「どうせなら捕まえてやるよ、高杉!!」
「やってみやがれ!!」
「頑張れ〜、十四郎くーん」
つい、銀時の方へ視線を運ばしてしまい隙を作ってしまった。土方の刀に胸元を斬りつけられ高杉は膝を地面につけた。痛いと言うより違う痛みが高杉を襲ったのだった。土方がとどめをさしに走り出したが突然の煙幕に足を止めた。
「これは…桂か!!?」
「ふはははは、馬鹿め。馬鹿は帰ってマヨでも啜っていろ」
「桂ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
煙幕が薄くなった頃には、桂の姿もなく高杉の姿もなかった。ただ地面に垂れおちた血液しかなかった。騒ぎに駆け付けた山崎達に土方は指示をだした。
「まだ遠くに行ってない筈だ!!探せ!!」
『おぉ!!』
その近くの路地裏の隙間から桂は様子を伺っていた。高杉は気絶してしまい、エリザベスに抱えられている。桂は、目を細め土方を睨んでいた。
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