短編

□凛と咲き誇る姫君
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久しぶりに万事屋に依頼が来た。
しかも依頼人の雰囲気でわかる。すっげー金が出そうな仕事。
新八は、さっさっとお茶を出し、神楽は大人しく俺の横にちょこんと座っている。万年金欠な万事屋。三人とも思いは同じだ。
逃がしてなるものか。

そんな三人の思いを知らない依頼人は、部屋を一度見回してから、口を開いた。

「此処が万事屋さんでいいんでしょうか」
「はい!!どんな依頼だろうと快く引き受ける万事屋アル!!」

ギラギラした目で食い付く神楽に依頼人がのけ反る。俺は、神楽をはたいて一つ咳払いしてから営業スマイルを作った。

「こいつは噛みついたりしないので大丈夫です。どうぞ、依頼をお話下さい。」
「あっ、はい。わかりました」

そう言うと依頼人は鞄から一枚の名刺を出した。
それを受け取り名前を読む。

「「「…………」」」


誰もが知っている遊郭の、その総締めと書かれた名刺。

「…ぎ…銀さん」

新八が震えた声を出す。依頼人は困ったように笑うと頭を下げた。

「すいません。主人は忙しく顔を出せません。私は代理のものです」
「……はぁ。で、このお偉いさんが万事屋になんの依頼があると…?」
「はい」

依頼の内容はこうだった。
この遊郭の店の名は攪乱(こうらん)と言う。すげぇ名前だなと思うが、まぁそこは置いておこう。
で、内容は、
この攪乱の一番人気の遊女の遊び相手になってほしい。

…それだけ。

「……へ?」
「あぁそうだ。さすがに遊郭なので子供は困ります」

つまり。

「……俺?」
「はい」

依頼人はにっこりと笑い、依頼料を述べた。

「…え…そんなに?」
「はい。何をしても構いません」

おいおい、そりゃおいしすぎねぇかこの仕事。
店一番の遊女の相手をする。しかも何をしても構わない。で、料金はがっぽり。
確実に危なくない?

「……銀さん」
「……銀ちゃん」
「神楽…新八…」

ガシリと肩を掴まれる。なんだ、心配してくれるの?

「「頑張ってこいヨ・きて下さい」」
「……はは」

まぁ…背に腹は変えられないよね。
薄情ものどもめ。

「…わかりました」
「引き受けてくれますか!!」
「……はい」

依頼人は本当に嬉しそうに笑った。まさかと思うけど遊女がゴリラとかないよね?

「あはは、当たり前じゃないですか!!晋様は美しい方ですよ」

しんって言うんだその遊女。依頼人はもう一度礼を言い、では明日の午後からお願いします。と、遊郭への地図と遊郭に入る為のパスのようなカードを残し、去っていった。

「……はぁ…」

遊女の遊び相手なんてなにすりゃいいの。
俺は小さく息を吐いた。



翌日。
俺は言われた通りの時間に遊郭、攪乱へと足を運んだ。

「……でっか」

さすが有名なだけはある。豪華な店構え。なのに下劣な感じは一切しない上品な建物。
昼間の遊郭というのは何処か不思議な場景だなと思った。そもそも遊郭事態あまり来ないのだ。
やばいな。今になって緊張してきた。

「坂田さん、こっちです」

入り口の近くまで歩いて行くと、昨日の依頼人が手招きしてくれた。申し訳なさそうに頭を下げている。
どうやら、今日も主人はいないようだ。
別にいいけどね。

「で?この店で一番美しい遊女さんは何処にいるの?」

面白い依頼をしてくれた主人の顔が見れないなら、さっさと美女の所に連れていってもらおう。
代理の彼は顔を上げると、はいっと元気よく返事をした。

「それでは、晋様のお部屋に行きます。一番奥の部屋になりますのでしっかりと通路を覚えて下さいね」
「はいよ」

店の中は、外見と比べ物にならないほど豪華で美しい造りになっていた。見ていて飽きない。
だが、何処も同じような造りのため、通路を覚えるのが大変だった。

…どのくらい歩いただろう。

「つきましたよ」
「……ようやくか」
「すいません」


いや君のせいじゃないし。
本当に奥の奥といった所に、シン様と呼ばれている遊女の部屋はあった。
だが、閉じ込められていたりする様子は一切なく、部屋の戸は、色は真っ黒だが普通の襖だった。

「晋様ー、連れてきましたよー」

依頼人がそう声をかけると、スラッと襖が勢いよく開き、腕が伸びてきた。

「…っ!!」

その腕に、胸ぐらを掴まれ部屋の中に引きずりこまれる。

「ちょ…!!」

いきなりのことに驚き、襖に手をかけようと腕を動かす。
…ッ間に合わない!!
そのまま俺は、その腕の主に凭れ掛かるしかなかった。
後ろでは、ピシャリと襖の閉まる音。
…覚えとけよ、あのやろう。

とりあえず、俺は胸ぐらを掴まれたままなので、それをどけようと顔を上げた。

「………」
「………」
「……っ!?」

これぞ正に思考停止。
顔を上げ、目の前にいたのはとても遊女には見えない姿の、だが、とても美しい女性だった。

「……えーと…あなたがシン…さま?」

コクりと頷き、ニヤリと笑う。
俺は胸ぐらを掴まれていることも忘れ、マジマジとシン様を眺めた。

黒に紫がかった美しい髪の毛。長い睫毛に、白く透き通るような肌。
その肌によく映える、翠の瞳。赤い着物。
そして、遊女だと言うのに薄紫の眼帯のような髪飾りで隠された左目。

―顔に傷のある遊女。

それは普通ならいない筈の存在。
それにこの雰囲気。まるでこの世のものじゃないような。

「俺、化かされてないよね?」

つい、零れた言葉。
すると、シン様は笑ったまま俺の胸ぐらから手を離しシュルリと肩に腕を絡めてくる。

「…えーと…?駄目だよ、女が自分から誘っちゃ」
「女じゃねーよ」
「………は?」

すっげー低い声。ハスキーボイスとかそんなんじゃねーぞ、これ。
目が点の俺の耳元でシン様は自己紹介をしてくれた。

「高杉晋助っつーんだ、よろしくな」
「へ………えっ、う…えぇえぇぇぇえ!?」


攪乱一の人気遊女…シン様は、高杉晋助と言う名のとても美しい

―男だった。




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