短編

□凛と咲き誇る姫君
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「おまっ…え?…マジで男?」
「あぁ」
「…………」
「信じらんねーのか?なら……………見るか?」
「いや、結構です」

高杉は本当に着物に手をかけ脱ごうとした。その行動で決定だろう。
確かに男だ。
思えば隠してある目ばかり気にしていたが、おかしいとこは他にもあった。普通の遊女なら髪を結っている。だが、高杉は簪はさしているが、結えるほど髪が長くない。…あれ?

「攪乱って…男買うとこ?」
「あ?ちげーよ、俺以外の遊女は普通に女だ」
「えっ、お前それなのに店でトップ!?」
「あぁ。俺は変態担当だからな」
「へ?」
「質問ばっかだな」

そりゃそうでしょう。店でトップの遊女が男だとは誰も思わねーから、普通。
俺の態度が気に入らないのか、高杉は顔をしかめた。あ、機嫌損ねちゃった?

「…俺は自己紹介したぞ」

違った。自分ばっか名乗ったのが嫌なんだ。…子供か。
俺はふぅと息を吐き、一度落ち着いてからいつものように言った。

「えーと、お前の遊び相手になるよう言われた、万事屋の坂田銀時でっす。よろしくね、晋ちゃん」
「銀時か」

へぇ、と笑って俺の髪に手を伸ばす。

「白髪じゃねーんだ」
「銀髪です」

失礼ね。
高杉は楽しそうに俺の天パを撫でくりまわす。

「ふわふわだ」
「はいはい…で?」
「へ?」

俺はお前と何して遊べばいーの?

そう聞くと高杉はスッと目を細めた。絡められた手に力がこもる。

「…男抱く自信はないんだけど」
「あほか。仕事でいつも銜えてんのに、なんで休んでる時まで人の銜えなきゃなんねーんだよ」
「えげつないこと言うねぇ」
「ククッ…遊女なんて、みんなこんなもんだ」
「やめて!!夢を壊さないで!!」

高杉は暫く笑ったあと、肩から手を外した。
そして一言。

「俺に外の話を聞かせてくれ」

そう頼んできた。さっきまでとは違う真剣な顔で言葉を続ける。

「どんな話しでもいい。お前が見てお前が感じた世界でいい。面白おかしくする必要はない。ありのままの世界の話を聞かせてくれ」

なんでそんな話を聞きたいんだろう。俺は、普通に疑問に思った。

「…それじゃ、全く楽しくないよ?」
「それでいいんだ。
脚色された話は、変態どもから十分聞いた」

にっこり笑って、自分の客を変態などと呼ぶ。成る程。

「いいの?客をそんな風に言っちゃって」
「いいんだよ。俺の客は自分の性癖を世に出せないお偉い様方……つまり」
「……変態だね」
「そ。だから頼むな」

もう一度念を押すと、高杉は自分の部屋のベッドに腰をかけた。

「ん。了解。そうだ」

俺はさっき思った疑問を聞いてみることにした。

「…なんだ?」
「最後に一つ聞いていい?」
「いいぜ。答えられる質問なら答えてやるよ」
「うん。晋様はさぁ」
「…晋助でいい」
「んじゃ、晋助はさぁ

…逃げたいの?ここから」

えらく興味深々だよね、外にさ。
晋助は首を傾げた。そして、馬鹿にしたようにハッと鼻で笑う。

「当たり前だろ」
「ふーん」

まぁそうだよね。普通。
でもさ、
お前の外への興味は人のそれより大分深いよね。
そう聞くと、晋助は悲しそうに俺を見て言った。


「俺はもう一生ここから出られないから」
「…へ?」
「仕方ねーだろ」



遊郭の遊女は大抵借金の片に店に売られる。
つまり、借金さえ返却出来れば遊郭を出れるわけだ。その確率は勿論低い。それでも皆、出る希望にかけその身を売る。
晋助のような強気な奴が早々にその希望を諦めるだろうか?

「…まっ、俺が考えても仕方ないけどね」
「?…なんだ?」
「いや?」

晋助は俺のくだらない日常の話を毎日、本当に楽しそうに聞いた。
神楽がどのくらい食べるかで驚き、俺にもわからないエリザベスの中身を聞いてきたりした。

「晋助ってさ、」
「おぅ」
「子供みたグハフッ!!」

肘鉄。これは痛い。

「おまっ…!!」
「誰がガキだって…?」
「…すいません」

そういう所がガキなんだろうが。殴られた腹を押さえながら、心で愚痴る。
晋助は、フンと息を吐いてからポフリと俺の肩に頭を預けた。そして、何を思ったかぼそりと呟く。

「…俺を抱かないやつは初めてだ」
「へ?」

なんですか、いきなり。そりゃ俺は客じゃねーし、当たり前だろう。

「ちげーよ。銀時ぃ」
「うん」
「俺の遊び相手として来た奴はお前が初めてじゃねーの」

でも、どいつもこいつも駄目だったなぁ。
晋助は何処か遠くを見て言った。

「へぇー」
「どいつもこいつも俺を犯す。そりゃ、何しても構わねぇってんだからしょうがねぇが、ヤられながらなんてまともに話が聞けるはずないじゃねーか」

初めて聞いた晋助の愚痴。それがなんとも正論だもんだから、俺は晋助の髪に指を絡ませ、笑った。

「話聞くだけでも大変なのねー。まぁお前、魅力的だからね」
「……はっ?」

笑いながら弾みでポロリと出た言葉。
その言葉に晋助は目を見開き、俺の肩から頭をどかして下を向いた。
顔が紅く染まっていく。
何その反応。

「えっ…ちょ、言われ慣れてるだろ、こんな台詞」
「…ッ当たり前だろうが!!」

バッと顔を上げ怒鳴る晋助の頬はまだ少し赤い。

「だよねぇ」
「…おぅ」
「…………」
「…………」

沈黙。あまりに晋助の反応が可愛くてどうすればいいかわからない。
やべぇなんか変な汗出てきた。
俯いたままの晋助が目だけ動かしてチラリと俺を見る。
凄いな。遊女の上目遣い。
うん。

「両目じゃないのが残念だ」
「…ッ」

左頬にそっと触れると、ビクリと晋助の体が強張った。

「ん…」
「これってただ隠してるだけ?」
「…んなわけないだろ」
「傷でもあるの?」
「…傷はない」
「じゃあ、なんで隠してるの?」

晋助は俺の手に自分のそれを重ねた。

「…いいだろ、別に」
「前髪めくっていい?」
「あっ」

返事を聞く前に髪飾りをとり、髪を額が出るほど上げる。
そこには閉じられてはいるが、傷はない綺麗な瞼があった。

「…目、開けてよ」
「……無理だ」
「なんで?」
「……ないんだ」
「………」

晋助の顔が歪む。
綺麗な顔は歪んでも美しい。そんなことを思った。


「…目玉が…ないんだ」


泣きそうな顔。俺は前髪から手を外し、晋助を抱き締めた。

「銀…時ぃ…」
「…聞かせて?晋助」

お前に何があったか。
晋助は、腕を俺の腰に回すと、ポツリポツリと話始めた。


嗚呼。男の過去なんかに興味なんてないはずなのに。
何を無理矢理聞いているんだ、俺は。
そっちの趣味はないはずなんだけど。

……こいつのことが全部知りたいなんて。

流石だね、攪乱一の遊女さん。この店の名はお前にぴったりだ。

会うたびに、お前に心をかき乱される。

遊女に恋なんて。
本当、滑稽。




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