短編
□ホタル
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「………」
「……」
「「……………」」
蛍が綺麗に飛び散る日の事だった。
一日の戦も無事に済み、晋助は、宴をしようという仲間たちに疲れているからと断り部屋に戻ったのだった。
しかし、部屋の中では誰かが煙管を吹かしながら座っているではないか。硬直した晋助に気付いた彼は、無表情で何秒か見つめた後、フッと笑ったのだった。
†ホタル†
「な、な……なぁあぁああァぁ!!!?」
「ちっ…うるせぇな。鼓膜破れるだろ」
晋助は、破けるか!っと言い返した。
そう、晋助の部屋に居た人物は、先々月に会った"未来の高杉晋助"だ。
彼には酷く激しく抱かれたが、彼の苦しさを知った。それを思い出したのか晋助は、気まずそうにし一応警戒した。
その様子を見た高杉は、瞼を閉じ笑った。
「何でまたお前が居んだよ」
「…さあね。俺さえ分からねぇのに分かる訳あるめぇ。……警戒し過ぎだ。少しは緩めろ」
「あんな事されて誰が、」
「気持ち良さそうに喘いでたじゃねぇか」
「…ふ…ふざけん、」
「悪かったな」
「……え」
晋助は、小さく口を開けて高杉を見つめた。
高杉は晋助の方に目を向けず、煙管を吹して窓から見える夜空を見上げていた。
一方、晋助はある事に気付いたのだ。初めて会った時に感じとった殺気がない事、に。
「奴は元気か?」
「奴?……あぁ、銀時の事か」
「ふん…ソイツしかねぇだろ」
「相変わらず馬鹿だよ。そっちの銀時はどうなんだよ?」
「……変わらず馬鹿な天パァさ」
間を少しとり顔を見合わせて笑った。
晋助は、押し入れの所まで歩み寄ると中から酒を取り出した。晋助はよく一人で飲む事を好み、酒を何本か置いているのだ。
時たま、銀時と酒を交わす。その為、ちょこが二個あり高杉にちょこを渡したのだった。
「酒は嫌いか?」
「馬鹿言え。俺ぁ、てめぇだぞ」
「ハハ…そうだったな」
高杉が持つちょこに酒を注ぐと自分のにも酒を注ごうとすると、高杉に酒を奪われた。
俺が注ぐと言いたいのだろう、そんな笑みを晋助に向けたのだった。注いだ後、コツンッとちょこをぶつけると酒を喉に通した。
「銀時とは…どうなんだ?」
「………」
高杉は、ピクリッと反応し飲む手が止まった。
沈黙が流れ、ゲロゲロと蛙の合唱が聴こえる。真っ直ぐ見つめてくる高杉に晋助は、やはり聞いちゃマズかったか、と冷や汗をかいた。
「………どうだと思う?」
「―……」
心配していた次の瞬間、高杉は微笑んで問い掛けてきたのだった。晋助はその笑みに、嬉しさが含まれているように見えた。
「やり直してんのか?」
「……まぁ、な」
顔を赤めて呟いた言葉は、晋助にも喜びを与えたのだった。
やり直すまでは辛いかもしれないが、いつかまた巡り会えるのなら晋助は辛さにも耐えられる気がしたのだった。
「どんなふうにやり直したんだ?」
「ふん、何興奮してやがる。……楽しみは取っとくもんだぜ?」
「……ぅ」
確かに、高杉の言う通り未来を知ってしまえば晋助がその時になれば面白くない。そのもどかしさを抱きながらも晋助は、口を固く閉じたのだった。
そんな晋助を見て高杉は笑い、ある日の事を思い出していた。
『年貢の収め時だ、高杉!!』
『……ちっ』
『てめぇにもう逃げ道はねぇぜ!』
ある路地裏に高杉は居た。
だが、状況はあまり良くない。そこの路地裏全てに真選組が回っているのだ。
来た道にも出る他の道にも真選組に囲まれ逃げ道がなくまさに万事休す。
追跡を交わしてきた高杉は軽傷を負っている。いつ真選組が突撃してくるか分からない今、次第に焦りが募っていくのだった。
クソッ…!俺とした事が…ッ。
このまま突っ込んで行ったとしても、捕まりにいくもんだ。敵が多すぎる…。
いくら俺でも逃げ切れねぇかもしれねぇ。
『諦めが悪いですねぃ。…土方さん、そろそろ突撃しやしょう。ドラマの再放送始まっちゃいますよ』
『わあってるよ。……山崎ぃ』
土方は、胸ポケットから携帯を取り出すと山崎に電話をした。『はい』っと向こうから返事が返ってくる。
『そっちは大丈夫かぁ?』
『はい!準備万端です!』
『よし……突撃だ!!』
『了解!!』
その大きな声は路地裏にいる高杉にまで響き渡った。その途端に、けたたましい足音が聞こえる。
『…ッくそ!!』
捕まる訳にはいかねぇ!
いかねぇんだッッ!!
俺は―………ッ。
『―………ッ!!?』
いきなり腕を掴まれ強い力に高杉は引き寄せられたのだった。真選組かと思えば予想を遥かに越えた人物であった。
その男に連れられ来た場所は、路地裏の一番細い道。男は、たくさん積み重ねられた木箱をどけたのだった。
その下には、マンホールがあり下水道に続く道だ。ある男とは、かつて仲間であり恋人同士であった坂田銀時であった。
『銀時っ!何のつもりだ!!!』
『騒ぐなって。見つかるだろ』
『そんなの今はどうでも―…』
『良くない、だろ』
『………う、ぁ!!』
銀時は、口五月蠅い高杉を肩に抱えマンホールの蓋を開けた穴の中へと入って行った。
下水道を歩きながら、銀時は開いた片手で鼻を抑えた。未だ、肩に背負われている高杉は、先程まで暴れていたが無理だと判断したのかムスッとした表情をしている。
何、考えてんだよ…こいつ。
……でも、懐かしいぬくもりだ。
こいつのぬくもりは嫌いじゃない…。
『これに懲りてテロなんか辞めれば?』
『馬鹿言え…。言っただろ…俺はこの腐った世界をぶっ壊したいだけだ、と』
『……』
『大体…今辞めて、この汚れた俺に何出来るんだよ』
『……そりゃあ、お前。アレだろ、アレ』
はぁ?っと高杉は身を少し捩って銀時の顔が見れず仕方なく銀髪を見つめる。
銀時が何を考えているのか、全く分からないのだ。銀時は昔から何を考えているのか読み取れないのだ。
『アレって何だよ』
『アレっつったらアレだ』
『…アレで通用するかよ!大体、俺の事何も知らねぇてめぇが勝手な事吐かす―…ッ!?』
銀時はいきなり、高杉を引き摺り下ろし肩で担いでいたのを抱っこに変えたのだった。
さっきまで見えなかった銀時の顔が目の前に現われ高杉は目を逸した。ふつふつと顔に熱が集まり、うっすらと頬を赤く染めていく。
『何年一緒に居たと思ってんだ?てめぇの事ぁ、全て知り尽くしてるつもりだ』
『…!…ゃめッ……んぅッ』
抵抗する手を片手で塞ぎ、銀時は高杉の唇に己の唇を重ねたのだった。
抵抗していた高杉も、その深いキスに溺れていき抵抗を止めた。下水には、キスを深めていく二人の影を映していた。
下水道から抜けた二人は、まんまと真選組から逃げた。そして、無言のまま歩き、着いた場所は万事屋であった。
あのキスの後、二人は色んな事を話し、やり直す事にしたのだった。無言だが、ちゃんと手を握っている。それだけで、幸せなのだ。
『銀時、俺が出来る事って何だったんだ?』
『…あー、アレか?』
万事屋の中に導かれ、ソファに座った高杉は押し入れから救急箱を取り出した銀時に問うた。銀時はニヤッと笑うと答えたのだった。
『俺のお嫁さんになって、一緒に暮らす事』
『……馬鹿か?』
『えー?良い考えじゃん?』
『言ってろよ…馬ー鹿』
ククッと笑い、後ろから銀時の首に腕を回した。銀時は、救急箱を机の上に置き高杉を手当てするのに使うモノを出している途中であった。
『コラ、コラ…手当てできないでしょうが』
『…今は、甘えてぇんだよ。……分かれよ』
『…あーもう!何でお前そんなに可愛い訳?!誘った事、後悔すんなよ!』
『…お前が好きだから誘ったまでだ』
『銀さんも、死ぬほどおめぇが好きだ』
銀時は、机から高杉に向き直し高杉をソファに押し倒したのだった。
それが、ある日の事であった。
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