短編

□二人の秘密
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「「………」」




銀時と晋助は、己の目を疑ってしまう。
目を何度も擦り、再び目を凝らすが景色は先程と変わらない。




「…晋助くん、アレなんだろうね」

「…コナンに出て来る黒い奴じゃねぇの?」

「初めに出て来る犯人か?姿は秘密です〜、後で分かりますから〜的なあの黒い奴?」

「うん」




二人が目にしたのは、ゆらゆらと動く黒いモノ。ソレはいかにも、人間ではない。
まず、黒い物体が天井やらを歩く訳がない。




「…奴な訳ないな」

「…ああ」




二人の顔からは冷や汗が流れていた。










†二人の秘密†










「銀時…なんとかしろよ」

「し、晋ちゃんがどうにかしてよ!」

「嫌だ!気色悪ぃし!!」




気味悪く動く物体に二人共、壁に張り付く。
こうなったのもつい数分前である。銀時の家に上がり、話して盛り上がっていた時に、黒い物体が開いていた窓から入ってきたのだ。




「見つけたぞ!!」

「「……ぇ」」




黒い物体が入って来た窓から緑の衣装を身に包んだ少年が入って来た。
これまたびっくり仰天。その少年は空を飛んでいるのだ。銀時と晋助は、驚きのあまり硬直してしまった。




「戻れ!僕の影だろ!!」

「「……」」




不気味に動く物体の正体は影でそこら中を飛び回る少年に晋助はクラッとし銀時に寄り掛かった。




「し…晋ちゃん、大丈夫?!」

「意味分かんね…影が離れてんならアイツ死んでるだろ…そもそも何で飛んでんだよ……あ。俺等も気付かない内にあの世にいるのか。なら理解でき、」

「ギャー!!晋ちゃん、目が虚ろだって!まだ生きてっから!コレ現実だからぁあぁ!」

「……も、駄目」

「きゃー!!…やい!てめぇ等、いきなり人様の家に上がり込んで、見ろ!うちの晋ちゃんがこうなっ……ウギャァア!」




晋助が気が滅入っているのを謎の少年と影に怒ろうとした直後、二人が銀時たちに突進して来たのだった。
重力には逆らえられずバタンッと倒れてしまった。計二名、否、三名に押し潰された銀時であった。




「捕まえた!!もう逃がさないぞ」

「ッの野郎が。…ぃ…い加減にどけやぁあ!」

「うわ!」




銀時は、晋助だけ肩を掴み寄せ、ガバーッと起き上がり、上にいる少年と影を退かす。
少年はやっと銀時と晋助の存在に気付いたようだ。驚いた表情をした後は、申し訳ない表情をとった。




「いきなり騒いで悪かった。僕の影が主人から離れたもんで…つい」

「たくっ。大体てめぇ何者だよコノヤロー!」

「んな怒んなって銀時」

「……晋ちゃんがそう言うなら」




瞼を開けた晋助は、弱い視線を銀時に向けそう呟いた。晋助なりに冷静さを少し取り戻したのだろう。先程の虚ろな目ではない。
銀時は、ブツブツと愚痴を零している。




「僕はピーター・パン。ネバーランドから来たんだ」

「ネバーランド…?」

「夢の国、みたいなものさ」

「ちょっ…それより、その影どうにかしろよ」




銀時はピーターの話を真面目に聞くより、まずその気味悪く動く影をどうにかして欲しかったのだ。
ピーターもどうにかしたいが、どうしたら良いか分からないらしくキョドっている。




「…貸せ」

「…何する気、晋ちゃん?」

「縫う。靴脱げ」




ベッドの下に眠ってあった裁縫道具を見つけ、晋助は針に糸を通して準備万端。
答えを聞いた銀時は、それで大丈夫なのか?という瞳で晋助を見つめる。
ピーターも晋助の言う通り両方の靴を脱ぎ晋助に渡すと、晋助は影を引っ掴み、靴の爪先に縫い付け始めた。
終わるとピーターに靴を返し、履けば影はちゃんと自分から動かなくなったのだった。




「ありがとう」

「別に…」

「えっと、ペーターくんだっけか?とっとと出て行ってくんね?」

「ピーター、だ」




晋助の手を握り喜ぶピーターに銀時はムスッと機嫌を悪くした。
自分がベタ惚れの晋助に気安く触れられたのが気に入らなかったのだった。
晋助の前に立ちピーターを笑って見下ろす。勿論、目は笑わせず。




「そうかい…じゃあな、ヒーターくん」

「嫌がらせか」

「べっつにぃ」

「まぁ、待て銀時。そうイライラするな」

「だって、晋助っ…」

「ピーター、俺ぁ晋助でこいつぁ銀時だ。…なぁ、ネバーランドが夢の国っつってたけど、本当にそんな所あんのか?」




小さな子供のように少し目を輝かせる晋助に銀時は、マジかよと呆れ、ピーターはキョトーンと晋助を見つめ、笑った。
銀時は更に苛立ちが募る一方だ。嫉妬する自分に多少呆れるが晋助の自分勝手さにはまいる。




「影を縫ってくれたお礼にネバーランドに連れてってあげよう」

「―…本当か!」

「あぁ。勿論さ」

「ちょっ!晋助ッ」




オイオイ…まじかよ。
いやさ、そのキラキラした瞳とうっすら頬を赤く染めたのは悪くないよ!?
むしろ、喰っちゃいたいぐらいだよ!
…って、そうじゃなくて!!




「駄目だ!銀さん許さないぞ」

「何でだよ、銀時。楽しそうじゃねぇか」

「君も一緒に行こう!ネバーランドへ」

「行くか!!」

「せっかく誘ってくれてんだ。行こうぜ銀時」




つーんっとそっぽを向いていたが、未だ差し出してくる晋助の手を見て、困った表情で晋助を見る。
晋助は銀時が自分の手を握ってくれるのを待っており、銀時ともう一度呼んで微笑む。
ハァッと溜め息を零し銀時は、差しだす晋助の手を握ったのだった。




「あ、そうだ。…ティンク!いるんだろ?」

「……ティンク?」

「妖精さ」




二人は目を丸くさせると、小さな光が窓から入って来た。その光は、クルクルと銀時と晋助の回りを回ってピーターの元へ行った。
よくその光を見ると、小さな人であった。髪を一つに纏め、ピーターと同じで緑の衣装を身に包んでいる、可愛い女の子だ。




「ティンク、彼等に魔法の粉をかけてくれ」

「「……魔法の粉?」」




ティンクて呼ばれる女の子はコクリと頷き、銀時と晋助の上を往復しサラサラと輝く粉を降り注いだのだ。




「楽しい事や良い事を考えると僕のように飛べるよ」

「飛べんのか?空に!」

「嘘に決まってんだろ」

「やってみれば分かるさ」




嘘だと思い込む銀時。それも当たり前である。人がそう簡単に飛べるもんじゃない。
しかし、その反対に晋助は更に興奮していた。楽しい事を考えているのだろう瞼を閉じている。




「そう、その調子だ。……ジャンプしてみて」




ピーターがそう言うと晋助は、床を強く蹴ってジャンプをした。すると、驚いた事に晋助はフワフワと飛んでいるではないか。
それを目の当たりにした銀時は、ポカーンッと口を開けている。




「銀時…浮いちまった」

「ま……まじでか」




晋助も驚きを隠せないでいるが、行きたい場所にスイスイと行けるのだ。
銀時もやってみろよ。と晋助に言われ銀時も晋助と同じように楽しい事を考えた。




楽しい事…。そりゃ晋助といる時でしょ。
そうだな…例えば晋ちゃんとあんな事やこんな事をする時、かな?




「おい…何考えてやがる?」

「楽しい事」

「…そうか。なら、なんだ?その鼻血」

「………」




数分の間……。
銀時は、宙に浮いていた。ただし、顔は腫れている。晋助に殴られたのだ。
頬を擦りながら銀時は、ブツブツと心の中でぼやいていた。




今日は嫌な日ばかりだ。
晋助は会ったばかりの餓鬼にベッタリだし。
俺の事見向きもしねぇしよ。
あ゙ー、なんかすっげーイライラする。




「よし、なら行こう!ネバーランドへ!」




三人は窓から飛び立ち、誰もが眠っている深夜を飛んで行ったのだった。




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