短編
□君に贈る言葉
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一年間…。
一年間なんて長いものだと思っていた。
だから、あいつと長くいれると思っていた…。
†君に贈る言葉†
「おめぇ等ぁ、卒業おめでとう」
三月一日。今日は卒業式。
無事式を終えた後、生徒たちはクラスに集まっていた。3Zの担任・坂田銀八は教卓に立ち、目の前にいる生徒たちに祝福の言葉を送った。
クラスには、泣く者の声やすすり泣く者が半分程いた。仲間を思いやり、騒がしいクラスだった3Z。そんなクラスが皆大好きだった。もちろん、担任である銀八も皆信頼し、どの教師よりも好んでいる。
離れがたいクラスで離れがたい教師だ。
「いつまでも、めそめそしてんじゃねぇよ。ダメ人間と思われちまうぞコノヤロー」
「…先生、それ教師が言う台詞じゃないですよ」
「…そういえば、新一のツッコミも最後だなぁ」
「スルー!?つうか、新八じゃボケェ!!」
バンッと机を叩く新八に周りの生徒たちは涙を浮かべたまま笑った。確かに、銀八と新八のやり取りはこれで最後だ。と同時にこのクラスは今日で終わりなのだと銀八も生徒たちも改めて実感した。
笑いに包まれた教室に、一人だけ何処か遠くを見ているような瞳をしている生徒が後ろの席にいた。そこにいる彼は銀八の恋人・高杉晋助である。
「高杉〜、目が死んでっぞー。銀さんとキャラ被って嬉しいけどね〜vv」
「……馬鹿言え。ありがた迷惑だ」
「グサッ!…可愛くねぇのっ!!」
胸に手を当て、いかにも傷ついたぁ!的な仕草をとりながら銀八は頬を膨らます。生徒たちは肩を竦めて苦笑い。
ハァッと溜め息をついてから銀八は、コホンと咳払いをして高杉から教え子たちに向き直る。一人一人顔を見て、その顔をしっかり目に焼き付かせる。
「お前等は、今まで持ったクラスの中で一番いい。毎日、賑やかなお前等を見れて俺は幸せだった」
『……』
「お前等にもう言う事はもうなにもない。自分を信じて自分の道を進んで行け…いいな?」
問いかける銀八に生徒たちは、コクリッと強く頷いた。それを見て銀八はフッと笑みをこぼして、よし!と呟いた。
最後のHRを終え、3Zの生徒は写真やらアルバムの後ろにメッセージを書き合うなどの思い出作りを始めていた。女子生徒の神楽は、銀八に突撃するかのように抱き着いたりしていた。
気づけば銀八の周りは生徒に囲まれていた。その光景を離れた場所で高杉は見ていた。彼の周りには、幼馴染みの土方、沖田、桂がいた。
「…寂しいもんだな。もうこのクラスと一緒におれないっつーのは」
「そうですねぃ。俺は土方コノヤローと別れれるから嬉しいですけどねぃ…つか、死ねよ土方」
「んだと…てめっ、総悟!逆に地獄送りしてやろうか!!あぁ?!」
「きゃー、暴力反対でさぁ」
待てや、てめぇえっ!!と先程まで大人しかった二人が追いかけっこを始めた。相変わらずの仲の土方と沖田を高杉と桂は見つめていた。
土方と沖田は腐れ縁なのか、二人とも同じ体育系の大学へ進学するようで、このやり取りはあと四年も続くんだな。と高杉は頭の隅でそう思っていた。
「今日、行ってしまうのか?晋助」
「…あぁ」
「そうか…」
「んな面すんなよ、ヅラぁ。それだと大学で馬鹿にされんぞ」
ヅラじゃない桂だ。と決め台詞を言う桂にキャッキャッと笑う高杉。彼の側にいる桂は、得意の物理系の大学へ進学するのだという。
当たり前のようにいた幼馴染みも仲間たちもいつかは離れてしまうんだ。と高杉は感じた。
辺りを見渡せば、少しずつ人が減っていっている。
「晋助…」
「なんだ、まだ居たのかよ。お前等」
「酷いでさぁ。土方さんはどうでもいいですけど」
「どうゆう事だ、総悟。…まぁそれは後でで良い。今日行っちまうんだな」
「また会いましょうね」
「あぁ…元気でな」
残っていた土方、沖田、桂は自宅へと帰っていき、いつの間にか教室には高杉一人だけであった。
窓から下を見ると、まだ懲りてないのか土方と沖田が暴れまわっている。
昔から暴れまわってたけど、ホント懲りねぇ奴等だな。
…あ、ヅラの奴止めに入って土方に蹴られてらぁ。
ハハ…ヅラまで暴れだした。
馬鹿かあいつ等は。
フッと笑みをこぼすと、今まで暴れていた三人がふと高杉が覗く窓を見上げ、手を振る。高杉もそれに応え手を振り返す。
校門へと向かう幼馴染みの背中を見つめ、高杉は瞼を閉じた。すると、ガラッとドアの開く音がし振り向くと銀八が立っていた。
「ごめん、晋ちゃん。待った?」
「そんなに待ってねぇよ」
「そっか。なら、行こっか」
「……うん」
手を差し伸べる銀八を数秒見て、鞄を片手に持つと手を繋いで教室を出たのだった。
丁度人通りが少ない時刻で、手を繋いで歩いても大丈夫であった。いつもなら、高杉は人前で繋ぐ事をいやだ。と言い張っていたが、今なら人前でも繋いで歩けるような気分だった。
「荷物は?」
「…もう向こうに届いてると思う」
「…そっか」
沈黙。
二人が歩く音と仄かな風の音しかしない。少し冷える日だが、繋ぐ二人の手だけ温もりが伝わって暖かかった。そうできるのも、今だけ。
高杉は、県外の大学へ行ってしまうのだ。地元から少し離れているのなら通えたのだが、遥かに遠いため、やむを得ず一人暮らしする事にしたのだ。
そして今日行くのは、行く大学で集まりがあるからだ。それがなければもう少しこの地元で…銀八の側に居たかった。
そうこうしているうちに、あっという間に駅についた。高杉は元から予約していた切符を駅員に見せて、5番のりばへ銀八と向かう。
電車が来るまであと十分。
「…銀八」
「ん?」
「………とめて、くれねぇの?」
「…え?」
銀八が横を向くと、俯いている高杉がいた。
更に下を見ると、銀八の服を握る高杉の手があった。
その仕草が可愛くて愛しかった。
「銀、八は…俺が向こうに行っても良い訳?何も思わねぇのかよ…」
「……晋、助」
合格した時は…確かに嬉しかった。
銀八もすっげぇ喜んでくれた。
だけど、合否発表から日にちが経って気付いたんだ。
銀八から離れなきゃいけないって…。
あの時は、考えてなかった。
そこの大学に行きたいという一心だったから…気づかなかった。
「こう思うのは…俺だけ?逆に銀八は俺が居なくなって精々するのか?」
「…っな訳ねぇだろっ!!」
「―…っ」
銀八の声に高杉はビクッと肩を揺らし、そんな高杉を見て、しまった、という顔をして気まずそうに後頭部をポリポリと掻いた。
うーっと少し唸って銀八は小さく溜め息をついたのだった。
「晋ちゃんは、俺がそんな奴だと思ってるの?」
「……」
「冷静に見えるかもしれねぇけど、その逆だっての。今でも引き戻してぇよ」
「…銀八」
「けど、お前はあの大学行くのに頑張ったじゃねぇか。行きたかった夢が叶ったんだ…俺が止められる訳ねぇだろ?」
困ったような笑みで言うと、高杉は俯いた。だが、銀八が言っていることは正しい。銀八は、必死に勉強していた高杉を見てきている。誰よりも。
銀八だって悲しいに決まっている。恋人と遠距離恋愛になると近距離恋愛より不安が強くなる。高杉が、銀八が、今なにをしているのかも、無事に過ごしているのかも見える範囲にいないと分からないのだから。
「すっげぇ悲しいけど、俺はお前を止めない…」
「ぎんぱ…、うぁ!?」
グイッと引き寄せられ、気付くと高杉は銀八の大きな胸の中にすっぽり収まっていた。
かぁっと頬を赤くさせた高杉は、いつものくせで辺りを目を泳がせて調べてしまったが、運よく人がいなかった。今ののりばには銀八と高杉しかいなかった。
「俺は晋助を愛してる。だから、遠距離でも平気だ…晋助を信じてるから」
「…馬鹿、やろっ。俺だって愛してるよっ。くそ…浮気したら許さねぇからなっ」
「銀さんは大丈夫ですぅ。晋ちゃんこそ浮気すんなよ!つか、襲われんなよっ?!」
「…うるせぇよ、ばかっ」
プルルルルッと電車が来る合図が駅に鳴り響く。
ついに来たのだと、高杉は銀八を抱く力を強めた。銀八もそれに気づいたのかもっと抱き締めたのだった。愛しの人の名前を呼ぶと彼は銀八を見上げた。
その顔を数秒見つめて、ゆっくり彼の唇に口付けたのだった。
「銀さんは、じゃあな、なんて言わねぇからな」
「…俺もだっつーの」
「待ってる」
「え…?」
「お前に言う言葉。…待ってから、必ず俺の元に帰って来いよ」
「…っ、待ってろよクソ天パッ!」
「あ、俺の元にっつーのは大学を卒業して家に帰って来いって事だからなっ!!……時間できたら会いに行く」
「……あぁ」
もう一度キスをすると電車が駅に着く前に二人はソッと離れた。
電車がゆっくり止まり、プシューッとドアが開かれる。人々が降りて行き、高杉も電車の中に入った。振り返った高杉は先程の表情と違って穏やかな笑みを銀八に向けた。
「銀八…ありがと。銀八に会えて良かった」
「俺もだよ」
すると、高杉が手でこちらに来るよう指示したため疑問に思いながら近寄ると柔らかなものが唇に当たった。
軽くキスされたのだと気付くと銀八は頬を赤くさせて高杉を見ると、した本人もほんのり赤く染めていた。
「大好き…」
「俺も。頑張ってな」
「ん」
ゆっくりドアが閉まり、電車は発車していった。
銀八は電車が見えなくなるまで見送り、見えなくなるとグッと背を伸ばした。銀髪を優しい風がなぜる。
ふう、っと溜め息をすると駅から出た。さっき恋人と通った道を今度は一人で通る。寂しいが一人とは感じなかった。
だって、まだ手と唇が…
仄かに熱を持ったように暖かかったから―…。
君に贈る言葉
(晋ちゃーんvv会いに来たよー!)
(なんでいんだよ?!一週間しかたってねぇじゃねぇか!!)
(良いじゃん!会いたかったんだし!)
(ドキッてときめいた思いを返せー!!)
*fin*
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という訳で卒業ネタでした!!
楽しく読んでいただけたら、光栄です(*^^*)
3.1 冬夜
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