短編

□早く早く…
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―…ジリリリリッ!



目覚ましが鳴り、五月蝿く鳴り響く時計を殴るように止め目を覚ます。ムクリッと起き上がりあくびを一つし、カレンダーに目をやると赤い丸印をされている今日この日。
ポリポリと首筋を掻き、窓を開ける。眩しい朝日に目を細め、気持ちの良い風が肌を撫でる。グレイはもう一度、あくびをすると立ち上がりジャージから動きやすい服に着替え始めたのだった。






【早く早く…】






グレイはすべての準備を終えると冷蔵庫に残っていたミニパックのカフェオレを持ち出し家から出た。いつものコートを羽織りギルド・妖精の尻尾へと足を向ける。
いつもと変わらない道のり。通りすがるパン屋で道に水を撒いているおっさんと毎日会い挨拶を交わす関係だったが、その心優しいおっさんからタダでパンをもらうのがいつの間にかグレイの日課となっていた。礼を言い、別れる。
パンを頬張り、カフェオレを飲みながら道を歩く。近くにある時計柱を見ると八時半。それを見て溜め息を一つ。一分一分がこんなに長かったのか、と実感したグレイだった。




そうだ…。
家に帰ったら風呂沸かしとかなきゃな。
それと…甚平、用意して、そんで洗濯とか……って




「…何考えてんだよ、俺」




時計を見たあとに歩き出したグレイは、無意識に考えていた事を強く首を左右に振って揉み消した。額に手を当て、ハァーッと長い溜め息を吐く。チラリと再び少し後ろの時計柱を見ると八時三十三分。今の間に三分しか経っていなかった。
改めて一分ごとの長さに驚かされた。




「ちっ……らしくねぇな」




小さな舌打ちをし、ギルドへと足を向けたのだった。
数分経ち、ギルドに着いたグレイは扉を開けた。グレイを出迎えたのは騒がしい仲間たちであった。朝から元気だな。っと苦笑しカウンターへ向かう。すると、妖精の尻尾・板娘のミラジェーンに挨拶を交わす。
カウンターの椅子に腰をかけ、ミラジェーンにココアを貰う。グレイはミラジェーンが淹れてくれるココアを好んでいる。相変わらず賑やかなギルド。ガジルとエルフマンが珍しく揉めていた。普段ならその中に入るグレイだが、グレイはそんな気分にはなれなかった。
ただ、ココアを飲みながらボケーッとしているのだ。それを見て、ミラジェーンはクスリッと笑った。




「ねぇ、グレイ?」

「…え?、あぁ…どうしたんだよ、ミラちゃん?」




少し反応が遅れたが、グレイはミラジェーンに目をやる。すると、はい!っとミラジェーンから紙切れを貰う。首を傾げながらもグレイは、それを受けとる。紙を見れば食材などが書かれたメモ用紙のようだ。




「……?」

「用ないなら買ってきてもらえるかしら?今、私動けそうにないの」

「…あぁ。どうせ暇だし暇潰しになるだろうから行ってくるよ」




そう言い、グレイはミラジェーンから財布を預り買い出しに出たのだった。すると、どっから湧き出てきたのかグレイは横に顔を向けるとエルザがいた。私も行くぞ。っと言い、対した量じゃないから良いとも言おうと思ったが、あのエルザだ。
断っても付いてくるだろう。なんでも妖精の女王・エルザ様なのだから。




まあ…良いか。
楽になるだろうし…。
話し相手もいるんだし。




それから、グレイとエルザはミラジェーンから頼まれたメモ通りマーケットで品を揃えていく。ときどきケーキ専門店の前を通る度にに無意識に行こうとするエルザを止める事を繰り返しながら。
後で寄ろうっと約束すれば、すんなり頼まれた品がすべて揃い買い終えた。それを待っていたと言わんばかりエルザは、グレイの腕を掴みグイグイッと引っ張り、ケーキ専門店へ向かう。
それにグレイは苦笑するしかなかった。荷物を落とさないようしっかり持ち、エルザに付いていく。




「………いつ決まるんだよ、エルザさん?」

「うーむ。このイチゴのタルトも上手そうだ。だが、このケーキも…」

「……ダメだこりゃ」




質問を聞いていないエルザにグレイは肩を竦めるしかなかった。すると、良い案を思いついたのかエルザは輝く瞳でグレイに振り向いた。まるで子どもが良いものを見つけたようであった。
何?と聞けば、迷うのなら迷うケーキも買う!とのこと。ケーキ好きの人はここまでするのだろうか。と苦笑い。すると、また良いのを見つけたのかエルザが再びケーキと向き合った。まだか。っとグレイは溜め息。




「グレイ、このケーキを見てみろ。…買って帰ったらどうだ?」

「……ホントだ。すげぇ…」




グレイは目を細めて微笑んだ。
それを見たエルザは、フッと笑い私が買ってやろう。と呟いた。断ろうとしたが、既にエルザは店員に自分のケーキと例のケーキを二個を頼んでしまったのだった。




「ホラ、持て」

「エルザ…悪いな。サンキュ」

「対したことはない。私が買うついでだ」




そう言いエルザはグレイに二つ入ったケーキ箱を渡した。
それを受け取り、グレイは礼を言う。さて帰るか、という時だ。少し先から悲鳴に近い叫び声が聞こえ、ふと前を向けば帽子を深く被った男がグレイとエルザを押し分けて走り去ったのだ。すると、男が走って来た先に女性が、今の男が引ったくりだと言う。
グレイは荷物を床に置き、冷気を引き出した。




「アイスメイク…床!」




すると、床が氷となり男は見事に転けたのだった。
グレイはその男から女性のバックと思われるものをとり、近くに来た女性に渡そうと振り向いたが、なんとも言えない殺気に体を固まらした。
エルザが鬼のような表情なのだ。何があったのかと思ったがあるものを見て理解した。床一面に散らばったケーキ、そしてそれが入っていた箱だ。
男が押し分けてきた拍子に落ちてしまったのだろう。男に襲いかかろうとするエルザを、グレイと複数の客人と店員を含め止めに入ったのだった。
なんやかんやトラブルもあったがエルザとグレイは無事、ギルドへと帰ったのだった。




「おかえりなさい。助かったわ。ありがとう。…あら?エルザ、ケーキいっぱい買ったの?」

「いや、ケーキ屋の店主がタダでくれたんだ♪」

「良かったわね」

「…ああ」




あれから、皆に止められたエルザは店主から買ったケーキともう一つおまけのケーキをくれたのだった。それだけでエルザは上機嫌だ。グレイは鼻歌混じりのエルザを横目で見ながら買った品を冷蔵庫に入れていく。
入れ終わり一安心すると、後ろから肩を叩かれ、振り向くとミラジェーンがいた。首を傾げていたグレイだったが、壁にかけてある時計を指差して、そろそろ帰ったら?と告げられる。現在の時刻は、四時五十分。
いつの間にか時間が経っていたため、グレイは目を丸めた。
ミラジェーンの言う通り、帰る時刻だ。また明日。と告げてグレイはケーキの箱を持ってギルドを後にしたのだった。




「何週間ぶりになるかしら?」

「…二週間ほどだろ」

「そのくらいね」




グレイは家に着くと、ケーキの箱を冷蔵庫に、入れ冷やす。
その後に、湯を沸かし準備万端。元々、部屋がキレイにしているグレイは他になんもすることがなく、ぼけっとして、そわそわして、少しむすっとしていた。




早く早く。
あ、インターホンが鳴った。
アホだろ、鍵なら開いてる。
早く早く。




グレイは、立ち上がり早歩きで玄関に向かう。








なあ、ナツ。
風呂沸かしといてやったぜ。
それとな、面白ぇケーキ、エルザがくれたんだ。
砂糖菓子で作った竜が乗ってるケーキ…。
あとで、一緒に食べような。








(グレイー!!)

(ぅあっ…ばっ、いきなり抱き着くな!)

(良いだろ、別に。…なんか言うことねぇのか?)

(……おかえり)

(おう!ただいま)




*fin*
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こんばんは!
そして初めての皆様、はじめまして冬夜です。


初のナツグレです(*^^*)
ナツに会いたくて仕方なかったグレイを書きたかったんです!!(笑)


初めてですが、銀高同様にナツグレも好きなんで頑張ります(`∀´)


8.8 冬夜

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