短編
□昔の仲、今の仲
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「ただいまー!!」
「よぉ、ナツ。おかえり」
「ギ、ギルダーツ!帰って来てたのか!…なら俺と勝負しろー!!」
「お前は俺と会うといつもこうだよな…」
そう言い、ギルダーツは後頭部を掻きながら苦笑した。
ギルダーツに勝負を挑もうとしているのは、正規ギルド「妖精の尻尾」に入って少し経った新人のナツであった。ギルダーツを尊敬し目標としているのだ。
いつかギルダーツに勝つ!それがナツの目標だ。
「…ギルダーツ、誰だ?そいつ」
「ん?あぁ…こいつか?ナツはマカオに連れられてクエスト行ってて知らなかったな」
そう、ナツはマカオと一緒にここ何日間かクエストに出掛けていたのだ。ギルダーツ曰く、ナツより早くギルドに入っており、ナツが来たときにはその者がクエストに出掛け、行き違いだったらしい。
ナツが見つめる先には、ギルダーツの後ろに立っているナツと同じくらいの子ども。ギルダーツのマントを握りしめナツを見ている。
「俺の娘、だ!」
「えぇ!!?ギルダーツ、子どもいたのか?!」
「ナツ。こいつの婿に行きたいなら、或いは欲しいなら俺に勝ってから、るぁああ゙っ!!」
痛々しい音がした。
その子どもがギルダーツの脛を蹴りつけたのだった。
その表情はどうやらご立腹のようだ。
周りのギルドの仲間たちは蹴られて仕方ないな…。っと肩を竦めて笑っていた。ギルダーツは、脛を押さえて片足で跳び跳ねている。
蹴った張本人は、プイッとそっぽを向いてしまった。すると、エルザが一歩前に出てナツを出迎えた。
「ナツ、おかえり」
「ぉ…おう。なぁ、アイツ…」
「あぁ…奴はグレイ・フルバスターだ。グレイは私より先にギルドに入っていたんだ。因みにグレイは男でギルダーツの子どもではないぞ」
「し…知ってるっつーの!!」
今まで会わなかったってどんだけ行き違いしてたんだよ。
偶然すぎて気味悪ぃな…。
「よぉ…俺はナツ・ドラグニルだ!よろしくな」
「………」
そっぽを向いていた少年・グレイは横目でナツを見ると、返事をしないでその場から去ってしまった。手を差し伸ばしたナツは口を開けて、グレイの後ろ姿を見つめた。ナツだけじゃなくエルザたちもである。
グレイがギルドから居なくなると、ナツはプルプルッと体を震わせ握りこぶしを作っている。あー、キレたな。っと誰もが思ったのだった。
「なんだ、アイツぅぅううっ!!!?」
ズボボボッと小さな火を口から出し喚いたナツだった。
【昔の仲、今の仲】
「機嫌直せよ、ナツ」
「……ギルダーツ、俺あいつ嫌いだ」
「ああみえて、グレイにも可愛いとこあるぞ」
「知るかよ!」
ガァッと口を大きく開け、ギルダーツに反論する。
それを見てギルダーツは肩を竦める。機嫌が悪くなるとナツはその者に対して全否定してしまうのだ。特に、無視られたら尚更だ。
大体、男のアイツの何処が可愛いんだよ。
ただの生意気な奴じゃん!
…思い出しただけで苛ついてきた。
くっそぉぉおお!!!
飲み終わったグラスを前歯でガチガチッと噛み鳴らした。
ギルダーツの言葉からだと、ナツ以外の者とは口を開いており、あんな態度はそんなにとっていないようだ。自分だけなのか?っと思うだけで苛ついてくるナツであった。
不満を抱いていると凄まじい音でギルドの扉が開き、そちらに目をやると、息を切らしたグレイが立っていた。
「エ…エルザ!!」
「どうしたんだ?!グレイ」
「こいつ、傷が酷ぇんだよ」
グレイの声を初めて聞いたナツだったが、慌てているグレイが抱えているのを見る。そこには傷を負った黒猫が…。
先程のツンッとした表情・態度とは変わり、困りと焦りで染まっていた。エルザがグレイに近付き、黒猫の様態を見、カナが救急箱を持って駆け寄る。
「大丈夫なのか?こいつ…」
「大丈夫だ。お前の応急措置がなかったら危なかっただろう…グレイのお陰で助かりそうだ」
「…ょ、良かった」
エルザにそう言われ、グレイはヘタヘタと床に座った。緊張がとけ、力が抜けたのだろう。その後に、無邪気な笑みを見せた。
その表情にナツは少しの間、見とれていた。
「そいつ…どうしたんだよ?」
「……お前には、関係ねぇ」
「な…なんだとてめぇ!!」
「よさないか!!」
ギルダーツの隣に座っていた席を離れ、ナツはグレイの元に行き、理由を聞いた。しかし、グレイはナツの姿を視界にいれると無表情になり、冷たく言い放った。
その言葉にまた苛立ちを感じたナツはグレイに殴りかかろうとしたがエルザに止められ、叶わなかった。
「グレイ、私も聞きたい。教えてくれないか?」
「……虐められてたんだよ。大人げねぇ魔導士の奴等に。二匹のうち一匹は助けてやれなかった。多分、こいつの親だったんだと思う」
話を聞いて、よくよく見るとグレイの頬に薄く痣が出来ていた。後から、だんだん紫色に染まっていくだろう。
「…そうか。カナ、グレイの手当ても頼む」
「分かってる」
そう言ったカナは、湿布を取りだしグレイの頬に貼った。他には怪我してないの?と言えば、バツ悪そうな表情をし、ない。っと言うがバレるに決まっている。
出せと連呼するカナに敵わず、渋々と他に怪我をした所を手当てしてもらう。その姿を見ていたナツは、気に入らない。っという文字を顔に出した。
「……お前ってさ、俺が怖ぇのか?」
「………はぁ?」
「ナツ…いきなりどうした?」
「だってよ、エルザ。こいつ…さっきから俺避けてんじゃねぇか」
「何が言いてぇんだよ、てめぇ…」
手当てを受け終えたグレイは、椅子から立ち上がりナツと向き合う。ナツとグレイが初めてまともに向き合ったのだ。目と目を見て睨み合っている。
先程とは違って嫌な空気が漂う。喧嘩を好まないですぐに止めるはずのエルザでさえ、止めに入らないで様子を伺うかのように腕を組んで見つめている。
「じゃあ、言葉かえてやる。…何に怯えてるんだよ?」
「……何が言いたいんだっつってんだよ」
「二人ともそろそろやめないか」
今まで見ていたエルザもようやく止めに入った。
少し放っておけばどちらかがおさまると思ってはみたが甘かったようだ。どちらとも退こうとはしなかった。両者とも負けず嫌いだからだろうか。
しかし、エルザが止めに入っても二人の耳には届かないのかやめようとしない。
「ホント気に入らねぇ奴だな。コイツの応急措置からするとお前、氷が魔法みたいだな」
「…それがなんだよ」
「かっかっかっ!俺は火の魔法だ!お前なんか足元にも及ば、っぃてぇぇえ!」
「言い過ぎだぞ、ナツ」
「ギルダーツ!」
いきなり頭に衝撃がきたため、頭をおさえて振り返ると後ろにはギルダーツが立っていた。ナツは、だってよぉ…っと頬を膨らましている。
すると、今まで感じなかった冷気が肌に突き刺さる。窓を開けてはいないし、今日はそこまで寒くない気温だ。それにナツは頭を傾けたが、その疑問はすぐに理解したのだった。
目の前にいるグレイのものからだった。拳を握り締め冷気を漂わせ、ナツを睨み付けている。小さな言い争いがグレイを怒らせてしまったのだった。
「俺をバカにするのは好きにしろよ。だけどな、魔法はバカにすんじゃねぇ。俺は…この魔法を誇りに思ってんだよ!」
「ぁ、おい…グレイ!!…何処へ行くんだ?!」
バタンッと乱暴に扉を閉めて出ていってしまった。
エルザの制止の声も聞かずに…。
シーンッとなってしまい、気まずい空気に包まれた。あそこまで怒るとは思わなかったナツは、少々反省中。そんな姿を見てギルダーツはそれが伝わったのかフッと笑いナツの頭を撫でた。
「ギルダーツ…俺」
「ナツ、あいつなぁ……」
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