短編

□不安からくる我が儘
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「……」

「おい」

「……」

「おい、グレイ!!」

「………?何だよ、ナツ」

「ボケーッとしてたからよ…」




ここは、ギルド・妖精の尻尾。
カウンターのイスに座っていたグレイにナツが話しかけたのだ。頬杖をついてボーッとしていたのだ。グレイがボーッとしているのは珍しい事でもあった。




「何かあったかよ?」

「……俺ってさナツよりやっぱ強ぇよなーって考えてただけだ」

「んだとコラァア!!じゃあ試しにどっちが強いかやるか?おぉ!?」

「上等じゃねぇか!この際ハッキリさせてやるよ」




ガタンッと立ち上がり、二人は額をぶつけて睨み合っていた。ブツブツと愚痴を言いながら。心配して損したぜ。とナツが。てめぇが勝手に心配しただけだろ。とグレイが言う。まさに売り言葉に買い言葉だ。
ギルドの仲間たちも、また始まったと苦笑いするのだった。。










【不安からくる我が儘】









「大体てめぇは、脱ぐ癖どうにかしろよ、変態タレ目野郎」

「てめぇこそクエスト行く度、町半壊しにする癖どうにかしろよ、加減知らずのバカ野郎」




お互い犬になったように唸り、一歩も退こうとしない。どうしたもんかと仲間たちが頭を抱える。ルーシィは、止めなさいよアンタたち。と止めているのだが聞く耳を持たないでいる。




「「てめぇなんかな、十秒で捻り潰してやるよ!!」」

『………』

「「…真似すんなっ!!!」」




ドッとギルドが笑い声で包まれる。
二人はどことなく性格が似ているのだ。負けず嫌いでもあり、喧嘩っ早い。
なんやかんやで賑やかになっていたギルドだったが、一気に静まりかえってしまった。それはギルドの出入り口で立っている人物によるものだった。
仁王立ちになり腕を組んでいる女性が、今にも喧嘩しそうな二人を冷めた目付きで見つめている。ナツとグレイに危機が迫っていた。




「「大体てめぇは―……」」

「何をしている、貴様等」

「「…………」」




ナツたちに近付いたのは、妖精の女王であるエルザであった。
彼女は、喧嘩を好まない。だから、ナツとグレイが喧嘩をする度、彼女の鉄槌が飛んでくるのだ。それを幼い頃から受けていたナツとグレイはエルザをいろんな意味で恐れている。
そんなエルザの低い音色を聞いて二人は固まり、顔から冷や汗をダラダラと垂らしている。




「ェルザ…これは、その……コイツが」

「ちげぇよ…グ、グレイが…」

「…問答無用だ!私が一から叩き直してやろう!」

「冗談じゃねぇ!!行くぞグレイ!」

「…は?ちょっ…うぁ!」




ナツはグレイの腕を引っ張り、走り出す。
グレイは足が少し縺れながらも、ナツに付いていく。
二人はそのままギルドを出ていった。




「ナツ!…諦めろ。エルザからは逃げれねぇって。それに俺等が悪ぃんだし」

「バカ言うな!エルザなんかに叩き直されてみろ。直る前にこっちの命がもたねぇよ!!」

「けどよぉ……ん?」




ドドドドッと後ろから凄まじい音がした為、なんだ?とグレイは振り返って後ろの様子を見た。
そこには剣を片手に持ち、目をギラギラとさせナツとグレイを追いかけて来ているエルザであった。何ともいえない迫力だ。




「待たんか、貴様等あぁああぁぁあっ!!!」

「うおあぁあぁああぁああ!!!?」




鬼のお面みたいに変化したエルザにグレイは情けない声をあげ、走るスピードをあげる。今までナツに引っ張られながら走っていたが今は並んで走っている。
逃げているうちに時間も経ち、夕日が傾き始めていた。エルザからどう逃げれたのか必死すぎて覚えていない二人は、野原に大の字で寝転がっている。
ハァハァッと息を整える。グレイはふと空を飛ぶ鳥を見る。その鳥は屋根に止まり一羽の小鳥に近づく。グレイは、その鳥たちを見て親子のように思えた。二羽とも空に飛び立ち、夕日に向かって飛んでいった。




………。
こいつも…いつか行ってしまうんだろうな。




「……ナツ」

「…ああ?」

「………」

「なんだよ…」

「いや、なんでもない」




なんだそれ。と呆れた返事が返ってくる。
グレイは静かに息を吐き、瞼を閉じる。




言えるわけねぇだろ。
行くな。だなんて…。
お前は竜を…イグニールを探してんだ。
ナツにとったら「親」だ。
俺が口を挟む事じゃ…ない。




グレイは夢を見た。
イグニールを見つけたナツが、自分から離れていくという悲しい夢。
起きてからというものの、それが頭から放れず考えてしまっていたのだ。だから今日、やたらとボーッとしていたのだった。




「……グレイ」

「ぁ?……うぉ!?///な、にしてっ……〜っ//」




ナツに呼ばれグレイが瞼を上げると、目の前にはナツの顔があった。グレイを覗くようにナツが顔を近づけたのだ。それにビックリしたグレイはナツから退こうとしたがナツが更に近づいてきた為、瞼を瞑った。
すると、額に柔らかいものを感じた。ナツがキスしたのだ。グレイはそれに少し身震いをした。




「なな、なにすんだよ!」

「んー?何となく」

「はあ!?誰かに見られてたらどうすんだよ!」

「俺は困らねぇけど?」

「俺が困るっつーの!!大体っ………なんだよ」




てめぇと一緒にすんな!っと言おうとしたグレイだったが、その言葉は出ては来なかった。ナツが若干拗ねてる顔がそこにあったからだ。
ムスーッとしたままグレイに顔を近付けて口を開いた。




「俺といんのに、そんな顔すんな」

「……」




そんな顔ってどんな顔だよ?
まともにいるっつーのに、失礼だなコイツ。




「寂しそうな顔してっから」

「―……」




ナツの言葉にグレイは目を丸くさせた。
そんな顔をしているつもりはなかったものの、ナツが言うのだからそうなのだろう。あるいは、ナツにそう見えただけだろうか。




「朝っぱらから何考えてんのか知らねぇけどよ…」

「……」

「俺が側にいっから!」

「ナツ…」




帰ろぜ。っと立ち上がるナツに続いてグレイも立ち上がった。
先に歩いていくナツの後ろ姿を見つめ、フッとグレイは口元を緩めた。ゆっくり歩き出し、だんだんとスピードをあげ、駆け足というかたちになる。




たくっ…。
ホントてめぇは勘が良いのか、悪ぃのか意味わかんねぇよ。




「…お?ど、どうしたんだよ」

「たまには……良いだろ?」

「おう!(可愛いやつ…)」




ナツに追い付いたグレイは、ナツの手を握った。
今、確かにいるナツを確かめるかのように。
ナツの暖かさを今一度確かめるように。
ナツは、嬉しそうに笑い握り返したのだった。
夕日が二人を繋ぐ影を描いていた。




その日が、いつ来るか分からねぇ。
けど、今ナツがいてくれる…。
それだけで十分だ。
その日が来たときに考えて、今を過ごそう。




「好きだよ…」

「ん?何か言ったか?」

「何も言ってねぇよ」









だから…悪ぃけどさ。
イグニール……
ナツにまだ見つからないで…。
これ…俺の小さな我が儘。









(あ。エルザ、おかえり!…あれ?アイツ等は?)

(今、帰ってる)

(そっか。てっきり引き摺って戻ってくるかと。)

(邪魔したくなかったのでな)

(……?)



*fin*
---------------
こんばんは!
冬夜でございます(`∀´)

まだ、ナツたちの口調になれてませんが、少しでも楽しんでもらえれば嬉しいです!!

これからも、よろしくお願いします(`・ω´・)+

8.14 冬夜

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