連載

□第18話
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視界が…ぼやける。体に、力が入らない。
…畳に赤い液体が広がっている。
嗚呼…、なんだ俺の血か。銀時のかと思った。
横腹が痛んで少し体を捩るだけで咳き込む。
口一杯に鉄の味が広がって気持ち悪い…。






銀時は…どうしたのだろうか?






高杉は意識が朦朧する中銀時の姿を探した。
だが、いくら探しても愛しい彼の姿など見当たらなかった。ゴホッとまた血を吐き、片手で傷口を抑える。




「……ぎ…と、き」




名前を呼んでも返事は返ってはこない。
高杉は、爾来の姿もない事に気付いた。爾来は、高杉をそっと畳に置いた直後、銀時が動きだし決闘が再開したのだった。
銀時と爾来の姿がないという事は、違う所で闘っているという意味を表している。





銀時に…会いたい。
止めないと…ッ、止めないと…殺られるッ。
爾来に殺されてしまう…!!
俺は…どうなっても構わない。
だけど、銀時は死んでほしくないッ!





「…っ、ゴホッ………は、ぁ」





傷口からボタボタッと血が流れる。高杉は、歯を食いしばり、柱を掴んでゆっくり立ち上がったのだ。そのせいで、傷口が開く。激痛が身体中を駆け巡る中、高杉は一歩一歩、足を踏み出した。血反吐を出そうが高杉は立ち止まらない…銀時に会うまで、銀時を止めるまで、倒れない。そう心に誓ったのだが、身体が思うように動いてくれない。




「……ッッ」




動け…、動けよ!!俺の身体だろ!?
頼む…、もう嫌なんだよッ。
俺だけ"守られる"なんて…俺だって。
俺だって"守りたい"!!!
神楽達を…真選組を…、銀時を!!




―…"守りたい"んだ…。




高杉は、膝が畳につきそうになりながらも、歩く。そんな時、あの時のことを思い出していた。何年も前の事を…。













『初めまして、俺は爾来だ。よろしく』

『……』




そう言い現われた爾来。
幼かった俺は、父親の後ろに隠れて目の前に立つ天人を見つめていた。




『約束通りの金額だ。この子は頂く』

『ありがとうございます。きっと爾来様の、お役に立てると思います』

『さぁ、来なさい晋助』

『……え、あ…父、さん??』




不安に満ちた顔で父親の顔を見上げる高杉だが、父親は首で行け、と従わせるばかりだ。
ふと視線をずらせば、母親が玄関先で座り込み声を殺し泣いている。高杉は、もう一度父親に視線を戻し持っている封筒を見つめる。
何枚も入った大金。封筒が敗れてしまいそうだ。封筒は合わせて5袋ある。一体幾ら入っているのか考えきれない。




……そっか。俺、売られたんだ。




高杉は、初めて自分の立場を知った。
そして、ゆっくり歩き始め爾来に近寄っていった。別に悲しくはなかったが、高杉は自分が生まれて来た事を恨んだ。
そして、夕方の道を爾来と共に歩いた。




『君には、働いてもらう。勿論…身体でな』

『………ッは、い』




嗚呼…なんか…消えてしまいたい。
まるで、お前の人生はお前では進んでいけないと、神に仕打ちを食らったみたいだ。
そんなの俺が許さねぇ。
…絶対コイツから逃げてやる。












年も経ち、遊郭・"floral clock"のNo.1となった高杉は、前々から抜け出す作戦を考え、逃げ出そうとした。
うまくいっていたが、守りが強かったのかバレてしまった。爾来にこっぴどく罰を受けた。殴る、蹴るなどの暴行を受けた高杉は、爾来から逃げられない、と分かった。




『いいか!!お前を買ったのはこの俺だ。お前は、逆らわず俺に従えばいいのだ』

『ッ…こんな、仕事なんざ願い、下げだッ!!他を回れ!!俺は……自由に、生きたい…』

『ハッ、自由ねぇ。お前には、そんなモノいらん。俺の為に、俺の店の為に働けばいいんだ!!大体、無力なお前に何が出来る??』

『…ッ』

『何も出来ないだろう!死ぬまで俺と一緒だ。お前は…俺から逃げられはしない』














無力…か。確かにそうだ。
俺は、銀時たちのようには戦えない。
剣術も何も知らない…竹刀とかも使った事もない。ましてや、人を"守ろう"なんか思った事もない。自分を守る、それに手一杯で他人なんか考えれる状態じゃなかった。




高杉は、壁に寄り添い乱れた息を整えようとした。





人と……接するのも…ホントは怖かった。
俺を抱きにくる客も、天人も、同僚も…。
嘘の自分の仮面を被り、正しい自分を隠す。
その繰り返しで、絶対誰も信じないと誓っていた。……誓ったはず、だった…。





高杉は、肺いっぱいに酸素を吸い込む。幾ら休んでも乱れた息は整えない。それに、血を流しすぎたせいか、足はガクガクとなり視界はぶれる。そんな状態でも、高杉は天井を仰ぎ過去の記憶を振り返したのだった。





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