連載

□第19話
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― 力貸してやるよ…銀時 ―







暗闇から聞こえたその言葉。
危険だ、と分かってはいた。
だけど…高杉を助けれるなら俺は―…














血渋きが宙に散らばる。
真っ白な壁や畳にリアルな色を残し、周りは傷だらけで遊郭の中とは思えない程になっていた。




「それがアンタの中で眠っていた獣って訳か。…良い、良いぞ!ゾクゾクする」

「……」

「だが、所詮は人間。貴様ごときに俺は倒せん。晋助さえ救えはせん!」




銀時は、先程と違って息を乱しておらず冷たい瞳を爾来に向け、ニタニタと笑っていた。
両者共に地を強く蹴って、刀を振るう。
甲高い音が鳴り響き、威風が広がり、襖は吹き飛ばされ、壊れ欠けた窓硝子も割れて散らばった。




「良い!面白くなってきた!!だが…」

「……」

「スキが空いてるぞ!」




スキの空いた銀時の腹を蹴ると銀時は襖に吹っ飛んだ。
襖が壊れる音が部屋中に響き渡り、モクモクと煙が立ち上がった。銀時の姿は見えないが微かに人影は見える。
爾来は、銀時がいくら狂気に満ちたとしても勝てると思ったのだった。




「貴様がどんなにもがこうとも晋助を助けることなど出来―……!!」




その時だ。ゴォッと砂煙の中から銀時が勢い良く飛び出てきたのだ。
その一瞬の中で見た銀時の瞳は、本物の狂気に満ちた獣のようであった。
銀時の一振りをかわせれず爾来は、横腹に深く食らいそのまま銀時同様、襖に吹っ飛んでいった。




「ハハ…ハハハハ!!!」

「ぐっ…」




今まで全くといって攻撃を食らわなかった爾来が銀時の攻撃を食らったのだ。
銀時は、ただ大声で狂ったようにニタニタと笑っていた。




「……楽しくなってきた」

「……」




左手を額にあてケラケラと笑う銀時は、己の左手の甲を怪我しているのに気付いた。
それは、爾来に刀で刺された傷であった。
銀時はそれを見つめた後、ニィっと笑うと流れる血を舐めたのだった。
それを見た爾来は、微かだが鳥肌がたったのを感じた。




「全くの別人だな」

「クク…ハハハハハ!!」

「……」




なんという奴だ。
さっきの面影が何一つ残ってはいない。




銀時は爾来に飛び掛かり、がむしゃらに刀を振るった。それを素早く爾来が受け止める。
先程とは違う銀時に、刀を受け流すが頬などを掠る。確実だが、少しずつ押されている。




坂田銀時……。
…やはり殺さねばならない男だ。




「人間にここまでやられるとはな」

「……」




瞳孔を開いた銀時が爾来に立ち向かい、爾来も銀時に立ち向かった。
キィィンと鋭い音が鳴り響き、両者共々吹っ飛び、銀時は壁に爾来は襖にぶち当たった。
ゆらゆらと立ち上がり、銀時は口の中に溜まった血を吐き捨てた。
だが、相変わらずその表情には苦痛はなくニタニタと笑っている。
もう今の銀時には、痛みも何も感じないのだ。ただ、目の前にいる爾来を倒す事を楽しんでいるだけである。
爾来も立ち上がり、銀時と向き合う。
息も次第に乱れ始めていた。両者は深く酸素を吸い吐き出すと動き出した。




「おおぉおおぉおぉおぉおぉお!!!」

「ハ…ハハハハハハハハハハ!!!」



















ドォオンッと建物に響き渡り建物が揺れる。
中にいる爾来の仲間たちが何だ!とざわついていたが、すぐ自分たちがする事を思い出し、天人たちはドタバタと探し始めた。
探しているのは、此所に入り込んだ真選組と子供に…floral cloakのNo.1である高杉だ。




「…なんですかね。今の揺れと音は」

「分からねぇ…だが、もしかしたら万事屋とアイツが戦ってるからかもな」

「銀さん大丈夫かな?」

「…アイツなら大丈夫だろ…今は高杉だ」

「…そうですね」




土方たちは、気絶した高杉を連れ瓦礫の山の後ろに隠れていた。天人は、それに気付かずに通り過ぎていく。
銀時も心配だが、今は爾来に腹を刺されてしまった高杉が心配であった。
準備の良い桂は懐にあった小さな袋を取り出し、応急処置を行っている。




「ヅラ子!晋助は大丈夫アルか!?」

「…今のところは大丈夫だ。ただ応急処置をしただけだから分からない」

「……じゃあ、早く病院に連れていかねぇと危ないじゃないですかぃ」

「そうだな…」




重たい空気が流れる。
中心であった銀時がいない今、何をすれば良いのか分からないのだ。
すると、小さな呻き声が聞こえた。バッと高杉を見ると、うっすらと瞼を開けていた。
何とも言えない弱々しい瞳が現われる。




「…晋助!大丈夫アルか?!」

「か……ぐ、ら?」




小さな声で神楽の名を呼び、少女は安心しボロボロと泣き出してしまったのだった。
勿論、安心したのは神楽だけではなく、土方たちも安堵の溜め息をついた。




「……ぎ、ん…と…き、ッ」

「バカッ…他人よりも先ず自分の事を考えろ!安静なしてろ」

「高杉さん、土方さんの言う通りですよ」




銀時がいない事に気付き、高杉は身を捩り起きようとするのを土方が止めた。
確かに、土方の言う通り高杉は怪我をしている。だが、高杉にはそんな事どうでも良かったのだ。




「銀…時が、戦ってんのに……お前等だっ、て…俺より傷酷ぇ、のに…」

「……高杉」




土方たちも天人たちと戦ってきた。
無傷にいられる程、敵は甘くないのだから、所々怪我している。
それを見ると、高杉は己が嫌になったのだ。




「…俺の…周りに、は、俺のため、に…命がけで戦って、くれてん…のに」

「……」

「ぉ、れは…お前たちに何もして、やれな…ッ…ゲホッ」

「高杉!もう喋るな!」




高杉が口から血を吐くと桂が背中を擦った。
高杉は、息を乱しながら畳に爪を立てる。
下唇を噛み締め、瞼を固く瞑った。




「―…晋、助」




畳に水がポタポタと落ち、染みていく。
それは水ではなく、高杉の涙であった。
悔しくて仕方なかったのだ。何も出来ない、助けられてばかりだ、と。




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