連載

□第19話
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「…ッ、そう自分を責めるでないぞ、高杉」

「ぅ……うッ」

「晋助、今出来なくても仕方ないヨ!晋助一人で出来たら私たちの力なんていらないネ」

「―……」

「そうゆう事ですよ。今まで出来なかったから…僕たちがいるんですよ?」




高杉は、顔をあげ新八と神楽を見た。
自分たちが危ない位置に立たされているというのに、子供たちは笑いかけたのだ。
そして、新八の隣りにいた土方が煙草に火をつけ、目一杯吸うとフーッと吐き口を開いた。




「高杉は、此所から抜けたあとの事を考えたら良い」

「そうそう。そうですねぃ…俺たちにおにぎり作って下せぇよ」

「……ぉ、おに…ぎり」

「動いたあとの食事は美味いんでさぁ」

「それネ!晋助、料理何気に上手そうアル」




高杉はもう一度周りにいる者たちを見る。
誰もが、高杉に笑みを向けているのだ。
高杉も、だんだん口元が緩み頷いた。




こいつ等の言う通りだ…。
俺がいくらもがいたって、敵わなかった。
此所から抜けれたら…俺に出来る何かがあるかもしれない。




「!…伏せろ!!」

「……ゎ」

「…ぅが!」




ピクッと何かを感じた土方が、近くにいた高杉と沖田の頭を鷲掴み伏せさした。
土方の合図に回りにいた新八たちは伏せた。
その途端、瓦礫がけたたましい音を立てて崩れた。パラパラと残骸が落ちて来た。
顔をあげると自分たちを隠していた瓦礫の山がなくなっていた。




「…な…何なんですか!?」

「……ぎ、ん……とき」




高杉が目にしたのは、思い求めていた銀時の姿であった。だが、銀時は変わり果てていた。
瞳孔は開いており、何よりいつもの優しさを感じない。




「…晋助、此所にいたのか」

「……爾、来」

「見てみろ。お前が愛したこいつの哀れな姿を…狂気に満ちているだろう」




高杉は、爾来を一瞥すると銀時に視線を戻した。銀時は、フーフーッと肩で息をしている。
銀時。っと呼ぼうとしたが、爾来との戦闘が再び始まってしまった。




「あんな…銀さん、初めて見た」

「多分、此所にいる全員だと思うぜ」




そう言った土方さえ、顔に冷や汗をかいていた。銀時の迫力がすご過ぎるのだ。
あんな、ヘラヘラしている銀時が今は全くの別人なのだから。




「ぎ…ん…と、き」




高杉の声は銀時には届かず、笑っていた。まるで、戦闘を楽しんでいるかのように。
爾来が一突きを入れると、銀時は避けず傷付いた左手をそこに出すと一突きされた。突き刺さった刀を左手で掴み、動きを封じると持っている刀で爾来を切り付けた。
しかし、爾来は二刀流。銀時が斬り付けた後、爾来も銀時を斬り付けたのだ。
一旦距離をとるのに、離れると左手から刀が抜け、どす黒い血がドバッと流れて来た。




「痛みを忘れるくらい…我を忘れてまさぁ」

「銀時…」




馬鹿者…。狂気に身を任せよって。
高杉を助けたいのも分かる。
だが、貴様がそうなってどうするのだ。




桂は、銀時を見て瞼を閉じた。
今の銀時は、攘夷戦争での白夜叉であった面影と重なっている。かつては、夜叉と恐れられ誰も近付く者はいなくとも、英雄と呼ばれていた。
唯一、銀時の近付くにいたのは幼い頃から一緒にいた桂であった。桂は、回りの誰よりも銀時を知っている。
桂が昔の事を思い出していると爾来の奇声が部屋中に響き渡った。
桂が何事かと見れば爾来が顔を抑えている。手の隙間からは血が止めどなく流れていた。




「ぐぅうぅッ…貴様ぁ」




爾来が手を退かすと顔には、左眉から右頬まで斜めに斬られていたのだ。
高杉は爾来と互角に戦い、爾来に傷を負わせた事に驚きを隠せなかった。
だが、不安が過ぎったのだ。元から銀時もはがたたなかったあの爾来が怒りを頂点に達したからだ。




「下等な人間が俺に逆らうんじゃねぇ!!」

「―…危ない、銀さんッ!!!」




新八が叫ぶが銀時は爾来の連発の攻撃を銀時は食らい銀時は幾つもの襖に吹っ飛んでしまった。
襖が破け倒れたせいで砂埃が舞い、銀時の姿が見えなくなってしまった。




「銀ちゃん!!」




砂埃が薄くなった頃に、うっすらと姿が見えた。目を凝らすと、打ち所が悪かったのか、銀時が襖の上で気を失って倒れていた。
それを逸早くみた高杉は、目を見開き、痛む傷に耐え、高杉は立ち上がって銀時の元へ行った。




「ッ……ぎん…と、き」

「待て…高杉!!」




土方が止めようと手を伸ばしたが、僅かのところで届かず、くうを切った。
ヨロヨロと銀時の元に行き、やっとの思いで銀時の近くにたどり着いた。
瞼を閉じ、意識を失っている銀時の側に寄り、頬を触る。




…酷い傷だ。
俺のせいで…ごめんな…銀時。




銀時の頭を持ち上げ、自分の膝に置く。
いわゆる、膝枕だ。高杉は、銀時の顔を見て、ギュッと抱き締めた。




「ふん…人間にしては対した奴だった。さぁ、そいつを渡せ。殺さないと気が済まん」

「…渡、さねぇ!お前なんかに…銀時は、渡せねぇ!!」

「何をムキになっている。そいつが晋助に何をした?汚い手口でお前を俺から奪おうとした奴だろう」

「違うッ!!!銀時はそんな奴じゃない!!」




高杉は、ギッと見下ろしている爾来を睨んだ。
爾来はそれを嘲笑うかのように鼻で笑った。






「銀時は……ッ」






『また、来てくれるか…?』

『…え』

『今度は、ゆっくりお前と話したい』

『…いいぜ』






「無理な願いをした俺に…」






『俺を……此所から出して下さい』

『おう!出してやるよ…。自由な外にな』






「優しくしてくれて…俺に笑顔を向けてくれた…。その時、初めて人の優しさを感じた。銀時といると嫌な事だって一時期忘れられた」

「……」




辺りが静かになり、土方たちの目線は勿論、銀時を抱く高杉と爾来だ。
そんな静かな中をドタバタと手下の天人たちがやってきた。
土方は舌打ちをし、刀を抜き取ると天人たちに立ち向かっていったのだった。
それに続き、神楽たちも立ち向かっていく。凄まじい音が鳴り響く中、爾来が口を開けた。




「お前にその感情などいらん!お前は黙って俺に従い、客に良い思いをさせれば良いんだ!!」

「爾来はいつもそうだ…俺に従え。客にだけ良い思いをさせろ。…なら俺は良い思いしちゃ駄目なのかよ」

「五月蠅い!!お前も俺に逆らうのならタダじゃ済まさんぞ!!」

「―……ッ!!」




刀を振り上げられ、高杉はビクッと肩を揺らし、瞼を固く瞑った。
だが、強い力に引き寄せられた。暖かなぬくもりを高杉は感じた。




「……おい、高杉に何してやがる」

「……きさ、ま!!」




高杉を守るように抱き締め、爾来が振るった刀は銀時の肩を掠めただけで済んだ。
銀髪の前髪から覗く瞳は、紅く鋭い瞳であり、もう狂気に満ちていた時とは断然に違っていた。




「墜ちるに墜ちたな。お前の花だという高杉を殺ろうとすっとはよ」

「…ぎ、ん」

「ありがとな、高杉。俺を守ってくれて。お前の声…暗闇の中で聞こえた」

「…銀、時ッ」




片目一杯に涙を溜め、高杉は銀時に抱き付いた。涙を流しながら、愛しそうに銀時の服に頬を擦らしたのだった。
回りで戦っていた神楽たちも、銀時が起きた事に気が付き希望の光が見えたのだ。
銀時は、啜り泣きをする高杉の頭を、よしよしと片手で撫でた。




「高杉…そこにいろ」

「……銀と」

「大丈夫…俺を信じろ」




真っ直ぐ見てくる銀時に高杉は頷くを得なくなり高杉は頷いた。
もう一度、銀時を抱き締めると高杉は銀時から少し離れたのだった。側に転がっていた刀を手に取り、爾来を睨んだ。







「今度こそ…終わらせてやるよ。全て、な」







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