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□第4話





窓際に座って景色をずっと見ていた彼は、この間の通り俺に振り向いた。顔も見えないのに、まるで微笑んでくれているようで…。
でも最後には必ず…「アレ」を見て目が覚めるんだ。




「また、"あの夢"だ…」




目が覚めた銀八は、汗でべたついた前髪を掻き分けた。側にあった眼鏡をかけ、日が昇る様子を窓から見つめた。





―…君は、一体誰なんだ…??










第4話











今日も変わらない日で、銀八は原チャリで登校し、生徒から挨拶をもらう。そして、自分のクラスの3Zに近付くたび騒がしさが訪れる。"タコ様ウインナー食うなヨ!!"とか"死ね、土方コノヤロー!!"や"てめぇが死ね総悟ぉぉぉぉ!!"とかオスゴリラとメスゴリラの争い、という雑音が漏れている。銀八は、他のクラスの静かさに軽く尊敬していた。ガラッとドアを開け、いつも通りの台詞を吐き捨てるのだった。




「静かにしろー、予鈴なってんだろ、席につけバカヤロー」

「だって、銀ちゃん。コイツ、私のタコ様ウインナー食ったアル!!」

「先生。私ハ、コイツニポッキー食ワレタンデスヨ!!ダカラ、タコ様ウインナー食ベタンデス!!!私ハ、悪クアリマセン!!」

「お互い様だよバカヤロー。大体、おめぇ等園児か?!何、遠足気分でいんだよコノヤロー!」




普段とは、そこまで変わらないはずだったが、いつも頬杖をつき静かに景色を見ている高杉が、とても懐かしく感じたのだ。高杉は、銀八の視線に気が付いたのか銀八を凝視し、口を開いた。




「何みてんだよ…天パァ」

「―……」




銀八は、フンワリと笑った高杉の表情に釘付けにされしまった。高杉は、ぼーっとする銀八に首を傾げ、今度は名前で呼んだ。すると、銀八は我に返り一謝りした。生徒たちに行事を伝えると、銀八はすぐさま教室から出て行った。高杉は、いつもと違う彼の後ろ姿を不安な瞳をして見つめていたのだった。




高杉が…、夢に出てきた人物と重なった。
今まで見てきた夢の中で彼に、高杉と同じ事を言われた気がしたんだ。
今まで何故近くにいて同じ口調だと気付かなかった??どうして今頃―…?




銀八は職員室に入り、自分の席に座ると頭を抱えた。銀八は、頭が痛い…、そんな感情に襲われていたのだった。










「……」










その頃、高杉はというと銀八の事を気にしていた。俯せになり、景色を見ていると名前を呼ばれ顔を向ければ、高杉は硬直した。土方が立っていたのだ。昨日の事を思い出してしまい、オロオロする高杉に土方は苦笑した。




「話でもしよーぜ、何もしねぇから…」

「……分かった」




頷き、高杉は土方と共に屋上へ足を踏み入れたのだった。ギィッと錆び付いた音を立てるドアを押し開けると、冷たい風が髪を靡かした。高杉は、ジュッとタバコに火をつけると、肺いっぱいに吸いて、フーッと吹き出した。




「一本どうだ??」

「さんきゅ」




土方は、差し出されたタバコを受け取り火をつけた。高杉と同じく煙を吹き出すとおかしな形をする雲を見つめ、ボソリと呟いた。




「思い出し始めてんじゃねぇの…??」

「……は??」

「銀八の事だ。あんな表情、今まで見た事ねぇし。それしか、ないと思うぜ」

「……どぉなんだろうな」

「なにがぁ?」

「「何って―……!!?」」




二人は同時にビクッとして、横を見ると土方と高杉が隣り同士で立っている隙間から銀八が顔だけ覗かしていたのだった。沈黙が少しの間流れ、高杉が叫んだ。




「ぎ、銀八…!!びっくりするだろうが!!!」

「うるせぇなぁ。気分転換に屋上来てみれば、授業サボってタバコ吸ってるとか何様のつもりだコノヤロー!!」

「……」




二人は苦笑いをし、顔を見合わした。その光景を見た銀八は、つうかさぁ…、と頭を掻きながら二人を見た後、土方を見た。




「大串くん、引っ付き過ぎ!!少しは『晋ちゃん』から放れなさい!!」

「し…晋ちゃん…??」

「…え??」




目を大きく見開いた二人に銀八はびっくりして、今自分が言った事を思い出す。すると銀八は、思い出したのか冷や汗をタラタラと垂らした。




あれ…?俺、今なんつった??
なんてどうでも良い!!!
一応謝らないとっ!!
不良くんのパンチは地味に痛そうだし!!




晋ちゃん。そのあだ名は、前世で銀時に言われていたモノだ。高杉は、未だポカンとした表情で銀八を見つめていたのだった。




「た…高杉くん、ごめんなさい!!わざとじゃないんです!!」

「…気にしてねぇから」

「―…でも」




話を続けようとしたが、銀八は次の言葉が出なかった。目の前の高杉が、少しだけ悲しそうに歪ませた表情をしていたからだ。




「気にしてねぇからさ…」

「…そ、うですか」

「…あぁ」




高杉は、土方に教室戻ろうぜ、と言う土方を連れて屋上から出る事にした。先に歩く高杉を追う際に土方は銀八とすれ違う前に告げた。




「銀八、高杉の奴…ホントに気にしてねぇから気にすんなよ」

「…いや、ありゃどうにても気にしてんだろ」

「……へぇ、さすがだな。俺は、頷くと思っていたぜ。……じゃ」




タッと走りだし、土方は高杉と隣りに行き一緒に歩いて行く姿を銀八は、その後ろ姿が居なくなるまで見つめていた。居なくなれば銀八は、ゴロリッと寝転び青空を凝視する。
銀八は頭痛に襲われた時、何故だか外の空気が吸いたくなり屋上へとやって来たのだ。その時に、自分の生徒である土方と高杉を見つけた銀八はある感情を抱いてしまったのだ。




今日の俺…なんか、おかしい。
どうして、自分の生徒に―…嫉妬、したんだ?




そう、銀八は高杉の隣りに立っている土方に嫉妬したのだ。その二人距離が近く、嫌だった銀八は、二人の間に割り込んだ。二人が驚いたと同時、信じられないの行動に銀八自身も驚いていた。




そろそろ、俺の授業になる時間だし、行くか。




銀八は、よっと立ち上がり屋上から出て階段を降りた。すると、行ったはずの高杉が階段に座っていた。どうやら土方は先に行かしたのだろう。銀八に気付いた高杉は、やっと来やがった、とふてくされて呟き、立ち上がった。




「高…」

「さっきのは…悪かった。昔…親しかった奴にそう言われてたんだ」

「そう、だったんだ」

「だから、気にすんな。…それが言いたかっただけだから……ッ!!!?」

「―…高杉ッ!!!




言いたい事を銀八に伝えた高杉は、階段をおりようとしたが足を誤って滑らせてしまい落下しそうになった。それを見た銀八が急いで、高杉の腕を掴み助けたのだった。銀八と高杉は、安堵の溜め息をついた。




「大丈夫か…高杉??」

「…ありがとう、"銀時"」

「……え??」

「―…ッ!!」




高杉は銀八の腕の中で銀八を見上げてそう言った。その時の高杉は、目を細め優しい笑みをしていた。が、銀時であり銀時ではない銀八を、"銀時"と呼んでしまったのだ。高杉は、バッと目を丸くさせる銀八から離れた。




「いや…何でもない。…ありがとな、銀八」

「あ……おぅ」

「……じゃ、あ」




逃げるように去って行った高杉に銀八は唖然としていた。ズキッと再び痛み出した頭に銀八は、頭を抑えた。そして、夢の最後に必ず見る夢が頭によぎる。
















夢のはずなのに…感触がリアルだった。
赤い液体が頬についた時の生温さも…。




『大丈夫…。一人にはしないよ、
俺も一緒に逝くから…』




真っ赤に染まる刀と自分と思われる人物から、刀で突き刺した人を見る。その人は、あの窓際に座っている彼だった。顔は分からないけれど俺を見上げてこう言ったんだ……。









『…ありがとう、銀時』












高杉に言われた時、今まで見て来た夢の中の彼の顔が…今思うと高杉の顔だった、ような…そんな気がした。












なぁ…君は誰なんだ??











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