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□第6話











「あ゙〜、頭痛ぇえぇ……」










完璧…二日酔いだな、こりゃ。
調子に乗って酒…飲み過ぎた。
当分、酒はいいわ…。










第6話










銀八は、ズキズキ痛む頭を抑えて国語準備室のソファに寝転んでいた。
携帯は先程、メールが来たからか、サインにチカチカと光っている。しかし、銀八はメールを返そうとしない。
相手が誰だか知っているからだ。昨日の合コンで知り合った女性からだということを。
ただ、頭を抑えて、黒ずんだ天井を見つめているだけだった。




「……」




頭に浮かぶのは…教え子。
怒鳴りつけ傷付けてしまった生徒。
そう、3Zの高杉晋助である。




あいつ…欠席だったな。
風邪でも拗らしたか?




なんて思っているとパラパラと雨雲から雨粒が降り出した。水滴が窓に当たる。
銀八は雨が降って来る空を窓から見ていた。
瞬きも忘れて、ずっと…。




雨……雨は嫌いだ。気分までブルーになる。
嫌な事が次から次へと記憶から蘇って来て、雨の景色に重ねるから。




「あ゙ー、頭痛ぇな。畜生…」




目元に手をあて視界から雨の景色を消した。
雨音が耳に障るだけ…。










『大丈夫か?』

「……あぁ。気分、悪ぃだけだから」

『銀八が言った事は気にすんなよ?』

「…分かってる」




学校を休んだ高杉はベッドに寝転んでいた。
携帯が鳴ったのは、ついさっきの事。土方が気にして十分間休憩にかけてきたのだった。
そんな土方に、有り難さを感じる。




「…明日には行くからよ」

『あぁ。だけど…無理すんなよ』

「クク…てめぇは母ちゃんかよ?」

『なんだそりゃ。ま、今日はゆっくり休め』

「あぁ。わざわざありがとな」




土方に別れを告げ、高杉は携帯を閉じた。
再びゴロンッと寝転び、溜め息を一つ零した。
明日行く、と言ったものの、高杉には自信がなかった。どんな顔で銀八に会って良いのか分からないのだ。
どんな反応されるかが…恐い。




……前世の事なんて、本当はどうでも良い。
確かに、最初は銀八に記憶を思い出して欲しいという欲はあった。けど、今は違う…。
思い出さなくても良い、俺に振り向いて銀八




高杉は目を固く閉じた。
しかし、浮かぶのは昨日の出来事。触るな。と言い、高杉を突き放し冷たい瞳で見た銀八。
銀八の言う通り、何しようと高杉には関係ない。銀八の人生は銀八のモノなのだから。
そんな事は高杉だって百も承知。




けどよ…今まで思いを寄せていた相手。
小せぇ頃から…ずっと探していた相手…。
そして、高校生になってやっと見つけた。
そう簡単に諦めれねぇよ…。




「そんな俺は…気持ち悪ぃ、のかな」




自らを自嘲するかのように、笑った。
何回思った事だろうか。前世の記憶なんて消えればいいのに、と。
そうしたら、普通の教師と生徒で…苦しい思いをしなくてすんだのかもしれないのに。
高杉は深々と溜め息をつき、雨音を聞きながら天井を見つめたのだった。




………銀八。お前が遠い。
手を何度伸ばしても、お前には届かず…どんどん俺から離れていくんだ。




高杉は、グッと力一杯、歯をくいしばった。
悲しくて、悔しくて、苦しい。そんな渦に高杉は、吸い込まれていたのだった。




心のどこかでは、期待していた。
いつか、俺に振り向いてくれる…と。
でも、その思いは儚く消えるんだな…。




「お前に……触れたい」




高杉は、天井に手を伸ばしたのだった。




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