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□第6話
「先生、大丈夫ですか?顔色悪いですよ」
「……大丈夫、多分」
放課後…。
準備室にプリントを届けに訪れた新八に銀八はそう言われた。
少し放っておけば収まるだろうと思っていた、頭痛も未だ痛んでいる。
「プリント、此所に置いときますね」
「…あぁ」
「じゃ、失礼します」
ガラリと開け、出る際に新八が、無理しないで下さいね。と言い出て行ったのだった。
適当に返事を返すものの、銀八はどうしたものか、と頭を抱えた。胸ポケットに手を入れ、四角い箱を取り出す。
煙草を一つ取り出すとライターで火を付ける。目一杯吸い、天井に向かってフーっと吐いた。灰色の煙が散らばり、跡形もなく消えていった。
雨は相変わらず降っており、先程より酷いのを雨音で物語っている。それを、ボーッと見ていると、ガラリッと再びドアが開いた。
チラッと見ると銀八は目を丸くさせた。
「………土方」
「……」
そう、そこには土方が立っていたのだった。
土方の瞳は、鋭く銀八を射ぬいていた。
無口でドアを閉め、土方はスタスタと銀八に歩み寄ったのだった。
「…どうしたんだよ?」
「……」
「土方くんには口がないんですか?」
ジトーッと見下ろしてくる土方を見つめる銀八。沈黙が続き、雨音だけが部屋に響く。
「……いつまで、"坂田銀八"で演じてる」
「………は?」
「てめぇ…既に思い出してんじゃねぇのか」
「…何言ってんのか分からないんですけど」
土方は溜め息をつき、銀八から目を逸すと窓側まで歩いた。銀八はその後ろ姿を見つめる
「何を言ってるか、分からねぇ…か」
「……」
クルッと振り返り、土方は窓に寄り添った。
銀八は、天井を見て短くなりつつある煙草を味わっていた。
「無様だな…。また、失うのか?…高杉を」
「……」
ピクッと煙草を持っていた銀八の手が揺れ、土方に視線をやった。その瞳は、いつもの瞳ではなく紅く宿った瞳であった。
「お前は、その手で高杉を殺し、お前もその後を追うかのように死んでいった」
「ハッ…何言ってんだよ。俺もアイツも今、生きてるじゃねぇか」
「俺たちは、てめぇの家に高杉が入って行ったという情報を聞いて…向かったんだ…あの日にな」
時代は江戸…。その日は雨が降っていた。
土方は、テロリスト・高杉晋助を追っていた。
流石の高杉も、複数相手に敵わず大傷を負っていた。
高杉に、上手く撒かれた土方は彼を追う為、江戸中に見張りをはった。だが、いくら時間が経っても高杉を発見出来なかったのだ。
その際に、聞いたのだ。住民が高杉を見つけたのだ。そして、万事屋に入っていった、と。
どういう事だ!?
アイツと高杉はどんな関係だったんだ!?
訳も分からず土方は、万事屋へ全力で走っていった。土方がそう思うのも仕方ない。
なんせ、万事屋オーナー、銀時とは嫌でも何かと関わっていたのだから。
息を乱しながら、土方たちは万事屋につき、階段を駆け上がったのだった。
ドアを勢い良く開けると、ツーンッと鼻の置くまで鉄の匂いが襲ってきたのだ。
「………」
「ひ…土方さん、コレぁ」
今、万事屋に真選組全員が息を呑んだ。
沖田が信じられないという表情をとり、微かに震える声で呟いた。
無理もない。居間に入ると、二人は寄り添うように亡くなっているのだから。どうやら、銀時が高杉にとどめをさし、銀時は自ら息を引き取ったのだ。
胸に突き刺さっている刀がそう語っていた。
その事件の後…土方は知った。二人が幼い頃からの仲で、付き合っていた事も、銀時が「白夜叉」であったという事も…。
「……」
「あの時…既に高杉は助からない状態だった。だからお前は、高杉を俺たちから守る為…楽にさせてやる為…お前の手で殺ったんだろ。そして、お前も…」
「もういい…」
「……銀、八」
「もういいよ。おめぇの言う通りだ…」
丸い小さな灰皿に煙草を擂り潰し、銀八はハァッと溜め息をつき、何だよ。てめぇ前世の記憶があんのかよ。とバツが悪そうに呟いた。
そんな銀八を土方は、やっぱりか、と見つめていた。
「いつから…」
「…アイツを避ける頃からだ」
「……なら昨日、なんで高杉に」
「今の俺に何が出来るってんだ?お前らと十も年が違い、三十路近いおっさんによ」
銀八は眼鏡を外し、目頭を抑えた。
銀八が言った言葉に何も返せない土方。
しかし、理由がそれだけで愛していた愛人を引き離す必要があるのか、土方が思っていると銀八が口を開けた。
「俺は、十分に高杉を守ってやれなかった」
「……」
「一度も…」
土方は、その言葉を喉の奥から搾り出した声が、苦しそうに聞こえた。
銀八は窓から土砂降りに降る雨を見つめ、目を細めた。
いつかの出来事を思い出すかのように。
『ぐ…あぁ…ぅッ、つ』
『高杉、もう少しの我慢だ』
『ぃッ…あぁ』
攘夷戦争…。雨が酷い日だった。
今回は今までの戦いとは遥かに違っていた。
黒夜叉という天人が現われ、高杉は左目を奪われた。銀時が訪れれ、戦ってる際に降ってきた雨の中、二人の力でやっと倒した。
しかし、重傷を負った高杉は銀時に寄り掛かってしまったのだった。
血を流しすぎたせいか、自分で立つ力すら高杉に残っていなかったのだ。
銀時は、急いで高杉を連れ廃寺に向かった。着くが早く、桂に手当てを頼み、今に至るのだ。
『ヅラ、高杉は?!』
『命には心配ない…だが、もう両目で見れる事はないだろう』
『そ…ぅ、か』
二人は肩を落とし、高杉にかける言葉がなかった。高杉も見えなくなっているのを何となく分かっていたのだ。
その夜…高杉はゆっくり起き上がり、裸足で外に出た。ザーッと雨が降っており、躊躇なく高杉は雨の中歩き出した。
大雨だったため、一分もしないうちにびしょ濡れとなった。
高杉は、曇天の空を見上げる。容赦なく自分に降り注ぐ雨を見つめ、高杉は奥歯を噛み締めたのだった。
『……ッッ』
『―……何してんだよ』
突然、雨が止んだ。いや、止んだのではなく、傘で凌がれたのだ。
傘を差し掛けたのは、銀時であった。自分しか起きていなかった筈なのに、と高杉は目を丸くさせた。
『傷…悪化すっから帰ろ』
『…ほっとけよ。てめぇにゃ、関係ねぇよ』
『高杉…』
『帰れよ!!一人に、させ―…ッ』
高杉が最後まで言うのを銀時が遮った。
傘が落ち、雨はあっという間に二人を濡らしていった。銀時が高杉を抱き締めたのだ。
それを拒絶するかのように、高杉は暴れるが銀時がそれを許す訳がなかった。
『ッ…銀、…俺ぁこれからどうしたら良い片目の俺に…何ができる?』
『高…』
『…怖ぇんだよ。なれない視界で俺は、戦っていけるのか。足手纏いなんて嫌だ』
『ごめん…ごめんな、晋助ッッ』
ギュッと力強く抱き締めた。
彼の目には、土砂降りで隠した涙があった。
銀時の背中に腕を回し、高杉は次第に声を出して泣き出した。
片目しか見えない不安。なれない視界。高杉の泣き声で気持ちが伝わってきたのだった。
どうして…ッ。
俺は、大事な時に守ってやれねぇんだ。
いつも側にいるのに…何故だ!!
高杉が泣く中…銀時も涙を流したのだった。
「それ以来だったな。守る事を恐れたのは」
「……」
「俺は、戦場から抜け出したんだ…アイツを置いて」
「……」
「結果、天人側の勝ち。それでも、高杉は鬼兵隊を再び率いり、テロリストになった」
銀八は自嘲するかのように笑い、自分の右手見つめた。土方は、銀時と高杉が死んでいった後、色々と調べた。
たが、分からない事の方が多かった。その分からなかった事を銀八自ら話し始めたのだ。
それを、黙って聞いていた。
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