07/22の日記
11:23
鰤プチ連載E翡翠と茜
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少年をかっさらった虚の巣は森の奥にある洞窟だった。
さほど奥行きがあるわけでなく目的地に行き当たると、一匹の虚と少年の姿が。
少年に目を向けると、どうやら意識は無いようだが無事な様子。
無駄足にならずにすんだようだな。
すらりと背負った刀を抜くと刃こぼれのない美しい刀身が現れる。
虚は唸り声を上げ、男に鋭い爪を振り翳すが爪は男にあたることはなく、代わりに何かが鈍い音を発して地に落ち、その音に幾分遅れるように虚の腕があった場所から血雨が降り注いだ。
それを避けるかのように一瞬で虚の後ろへまわった男は、痛みに吠えている虚に一言「うるせぇよ」と呟き刀を振るう。
虚が今ちょうど掻消えていく中、少年は目を覚ました。
身体を起こし、まだぼんやりとしか映さない目を擦り幾度かまばたきを繰り返すと、空ろな景色が色を顕し出す。
無意識にたててしまった音に、血の滴った刀を持った男が少年の方を振り向く。
「おぅ少年怪我はねぇか」
飄々とした表情で言う、男の平坦で抑揚のない声に知らず知らずのうちに少年は安堵の息を吐いていた。
刀を一振りして血を払い鞘に納めると、少年に近付く。
ん、と手を少年に差し出し反応を待つと顔を俯かせた少年は小さく「ありがとう」と呟き男の手を取り立ち上がった。
「で、あんた何者なんだ?」
潤林安に向かう道すがら少年は男に尋ねる。
「あぁ?…何者って言われるとなぁ…く「曲者とか言うなよ」つまんねぇなぁオイ」
けらけら笑いながら少年の頭を撫でると、翡翠色の瞳で睨まれる。
「まー良いじゃねぇか。それにしても少年の目の色きれーだな」
森ン中で見つけたちいせぇ湖みてぇ
「興味ねぇ。あんたこそ綺麗な目してるだろうが」
「そーかぁ?」
「暁の茜色みたいだ」
少年がそう言うと男は驚いたように目を見開く。
「なんだよ?」
眉間にしわをよせる少年は不機嫌と言うよりかは、子供らしいふくれっつらのように見えて、男は笑った。
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