頂き物
□10年後捏造
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アジトの中に、居るはずの無い男の姿を認め、ザンザスは眉間の皺を深くした。
「・・・どうやって入って来やがった。」
「おーザンザス。任務行ってたのか?」
「帰れ。何を間違えているのかは知らんが、お前のアジトはここじゃねぇ。」
「つれねぇの。」
ザンザスの愛想の無い、むしろ殺気すらにじむ言葉に、しかし山本は笑って答えた。
「ん〜。俺も仕事でこっち来たからさ。挨拶ついでにと思ってな〜。」
そこで山本は自分の胸ポケットから、あるものを取り出した。
「吸うか?」
ニカッと、邪気の無い笑みと共に差し出されたのは、彼にもっとも似合わない、健康を害する道具。
「獄寺の、パクって来た。」
そう言って、自分も一本取り出し、口に銜える。
それを見ると、ますますザンザスはイラついてくる。
「いらねぇ。」
そう呟いて、荒っぽく彼の向かい側のソファに座ると、「機嫌悪いのな〜。」などと、たわごとが聞こえてきた。
調子悪いのはテメェだろうが。カスが。
心の中で毒吐いて、本人には決して言わない。
言っても本人がその事に気付いているだけに意味はなく、自分のイライラが積もるだけだと知っているから。
ザンザスがそれほどまでに不機嫌を感じているのに、目の前の男に何もしないのは、ただこの男が自分の所属するマフィアグループの幹部だからではない。
幹部だろうと何だろうと、気に入らないものは消す。
それがザンザスだ。
では、何故彼に、山本には何もしないのか。
それは、彼が山本であるから。
彼の甘さを嫌でも知り過ぎているから。
それがザンザスだけでなく、ボンゴレ幹部全員が、この男に甘い理由だ。
「なあ、そういや、スクアーロは?」
ふと思い出したように、山本がザンザスに尋ねた。
いつもの事だ。
「さあな。」
「さあなって、自分の部下の居場所も把握してないのか?」
「面倒臭ェ。」
「ザンザスらしいのな。」
くくっと笑って、また煙草を銜えなおす。
そんな自傷的なところが、ザンザスは気に入らない。
「あのカスはテメェにとっちゃ、死んでた方が良かったのかもな。」
ザンザスが体温を感じさせない声でそう言うと、山本はあからさまに驚いてみせた。
「何言って・・・。」
「あのカスが生きてたから、テメェは甘い考えを捨てられねぇんだろ。」
ザンザスの有無を言わせぬ言葉が、山本を貫く。
「望むな。捨てろ。それが俺らの仕事だ。死んだ奴の上に、」
殺した奴の上に、
「立って生きる。それが当たり前だ。お前は、何に甘えてやがる。」
ザンザスの言葉に、山本はしばし何もリアクションを見せなかった。
だが、ポツリと一言だけ零して、笑ってみせた。
「・・・・ザンザスは、厳しいのな・・・・。」
そうして二人とも、もうそのことには何も触れない。
「煙草吸い終わったら、帰れ。」
「ん。りょーかい。」
ただ、煙草の煙だけが、部屋の中に漂った。
この胸の痛みが
あのときのように
消えてしまえばいいと
ただ、願う。
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