めだ箱

□衝動
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「・・―!」



「っ!!」


目の前の声にはっとなり、ようやく我に返る。
手には暖かいものが握られており、その温かさをつかもうともう一度力を込めると、また声が聞こえてくる。


「――宗像さん!!」


苦しそうに、絞り出すように出された声は、とても耳触りがよく、もっともっと聞かせてほしい。
何を握っているのかわからなかったが、手にもっと握力を込める。


「あっ、くっ・・・」


ああ、そうだよ。
その声が聞きたかった。
君のその苦しそうな声、表情、震える体。
とても、とても綺麗で、可愛くて、今すぐにでも




壊してしまいたい――






「ッ、形さん!!」



どうにかして逃れようとばたつかせた彼の手が、僕の腕に当たり、その衝撃で握っていたものを離してしまった。
途端に聞こえた彼の呼吸をする音。
一生懸命酸素を取り込もうとする彼の姿を見て、ようやく、自分がつかんでいたものが、彼の「首」だということに気付いた。


「はっ、はぁ、あんた、なにが、したかったんだ」


まだ整わない息に乗せて、一言ずつ紡ぐ。
彼の首には、僕の手形が痛々しいぐらい残っていて、今起こっていたことが現実なんだと知らしめる。


「・・・」


「なあ、形さ・・ん?」


黙っている僕に、何か言ってくれと懇願してきた彼の瞳が、驚きの色を宿した。
ああ、その色もきれいだ。けど、なぜ驚いている?僕はまた、彼に何かしてしまったのだろうか?
思考を巡らすが、僕が答えにたどり着く前に彼が行動を起こした。


「なに、泣いてるんですか」


言葉は、彼の手とともに僕に触れてきた。
頬を触られると、そこには確かに濡れた感覚があり、そこで僕は泣いているんだと気付いた。

なぜ泣いているのか?そんなの、僕がわかるわけがない。
何が起こったのか、さっきまで僕は何をしていたのか、覚えていない。
覚えているのは彼の苦しそうな顔。声。震える体。彼の温かな体温。

頬に触れる彼の手を握ると、びくっと肩がふるえたのがわかった。
怯えている。
そう、彼は僕に怯えていた。


「ぜんきち、くん」


自分から出た声は、何とも弱弱しく、怯えているのは彼のほうなのに、まるで自分のほうが、何かに怯えているような、そんな声。


「・・まったく」


はぁ、と疲れたため息に、今度は僕の肩が跳ねる。
恐る恐る彼の顔を覗き込むと、困ったような、でも無理した笑みではない。自然の笑みを浮かべ、僕を見つめる。


「大丈夫です。俺はあんたから離れたりはしない」

「・・・」

「まったく、俺が怒ろうと思ったのに、そんな顔されちゃ怒れるものも怒れないじゃないですか」

「・・善吉くん」

「なんですか」


彼の顔にも、僕の声にも、もう怯えは見られない。
彼の顔には、いつもの笑みが戻っていて、僕はひどく安心した。


「善吉くん、善吉くん善吉くんぜんきちくんぜんきちくんぜんきちくん・・・」


ごめんなさいでも、ありがとうでも、好きでも、愛してるでもない。
彼の名前をずっと呟き続けた。
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