見上げた空は青かった。

□20 アリス紛失事件@
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「―――そー、いや殿先輩。『アリス紛失事件』の話、何か知ってる?」


弾む会話が落ち着いた中、美咲が零した言葉に反応を示した殿内は思い出したかのように口を開いた。


「――ああ、それ…。俺もそのせいで急きょ、仕事キャンセルさせられたんだよなー。」



だから、ここにいるんだけど。


そう呟く彼の横顔はどこか疑問を感じているところを覚えて。そんな彼に詰めるように、再び問いが零れる。



「――中等部にさ、紛失者が出たって噂は本当っ!?」




零された疑問に呆けた声を出した殿内の表情は少しだけ驚きの色を浮かべていたが、一瞬の間、いつもの調子で苦笑を浮かべるものに摩り替わっていて。

その表情の変化に、視線を背後に映した己の視界に入ったのは、彼とアイコンタクトをとる野田先生の姿。人指し指を口元に当て、発言を控えるように行動する野田先生の姿はこれ以上混乱を招かないためにしているものだろうか。



(―――でも、その判断は間違っていない。)




この後に起こることも、ここの生徒にとってどれほどの衝撃を与えるかも己は既に知っているからこそ、判断を下せるのだが。




己の周りで、安堵から表情を緩ませている皆を見ながら、ポケットの中にある携帯を握り締めた私は、感じることのない振動の幻影を求めるかのように触れた。

















☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆






「――へえ、ちゃっかりこっちの世界に馴染んでるんだねー…」







それは暗闇の中に突如、現れた言葉。

寝静まっていた己に気配を感じ取られることなく主のベッドで腰掛ける男は楽しげな表情で部屋を見渡していた。それでも、その男の行動に警戒することなく、指摘をすることをしないのは、この男もまた自分の家族だからである。




「――ユズ、久しぶりだね。」





元気にしてた?、言葉を零し自分を穏やかな表情で見つめる男――木村孝を見ながら、同意するかのよう小さく鳴いたユズはゆっくりと立ち上がる男を見つめた。





「――志貴の結界もそうそうもたないな…。だから、ユズ。君にはこれを渡しているね?」






男から差し出されたのは、二つの石。それは、彼が触れたところから自然と吸い込まれるように己の中に入り込む。まるで、帰る本人が間違っていないというばかりに、その石は己の中で優しく温かみを発した。





「――合ってて良かった。でも、これが、君の能力で、動物として初めて『アリス』という力を所持するのが君をエミちゃんのパートナーとして選んだ理由だったしね…。



久しぶりに帰ってきた『元の世界』はどうだい?」






問いかけた言葉に、小さく尻尾を振ったユズの行動を見ながら、小さく微笑んだ孝はゆっくりと手を伸ばす。
少し短めの柔らかい毛を纏うその体を優しく撫でたと同時に、ポケットから鳴り響いたのは携帯の着信音。圏外と書かれたそれを見下ろしながら、ユズを振り返った孝はゆっくりと口を開いた。



「――じゃ、ユズ。後は頼むよ。」





何も反応はないけども、彼を見つめるその表情はすべてを語っているようで。鳴り響くそれを止めるために、通話ボタンを押したと同時にゆっくりと透けていく彼の体は瞬きをしたと同時に既に消えていた。









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