君はトランキライザー

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「――本当…ありがとうございますっ。旅のお方…っ。私は妻を…助けに行かなければ…っ」

「あー、無茶するなって…。俺の連れが行ってるから大丈夫だ…。」

あんたは無茶するな。穏やかな声音で安心させる彼の行動は、やはり医者に近いもので。それを見ながら、立ちあがった私は大きく背伸びをした。
いい加減、茶番に付き合うのも…終わりだろう。

「――助けにいかれるのなら、好きに行ってください。――傷を自分で作るという行為はあまり好きではありませんが、敵の眼を欺くなら可能な考えでしょうね。」

私の言葉に驚いたのはレオリオだけじゃなく。少し眉根を寄せ、私を諭そうとするレオリオの手前、倒れていた男性は漆黒の瞳を細めた。――そこには純粋な驚きと好奇心が溢れていて。口を開いた男性は声を落とす。

「――何故、気付いた?」
「―そんなに人間じゃない感覚を私たちに見せていたら、ばればれですよ。それに、あなたの表情には何も不安を抱いているようなものを感じませんでした。」


―――全て分かっているんでしょう?そう声を落とした私は、起き上がった男性の姿があって、俯かせたまま肩を揺らす男の行動に不安を覚えたのか、近づいたレオリオは腰を屈めたまま、動きを止めた。

―――彼は笑っていたのだ。酷く嬉しそうに。

「ははははっ!完敗だ…旅人さん。俺は、人間じゃない、魔獣のキリコだ。――正解したそこのお嬢さんと傷を手当てしてくれた兄さんは責任を持って案内するよ。」

おめでとう。そう声を落とし笑った彼を見ていた私は、隣で呆然とするレオリオにタックルをかました。――彼は私を見下ろしながら、状況を漸く理解したのか笑顔を見せながら、抱きついてきた。
というか、強すぎる、このレオリオさんの抱擁。もう少し優しく抱きしめないと女にはモテないから。
――何時の日かこの力強い彼の抱擁に耐える女性は現れるのだろうか。
そんな失礼なことを考えていた私は、彼の笑顔につられたまま小さく笑みを溢した



キリコの案内で、試験会場へとたどり着いた私たちの前に現れたハンター教会の使いを名乗る者から渡されたプレートには406という数字で。どこかの地下だろうか、溢れるようにいるハンター受験者の様々な視線を受け止めていた私は、漸く始まった試験に唇を噛みしめた。


はじまりはじまり。

(―――そうして、ハンター教会の使いとして紹介された髭を緩やかにカールさせた男の後を追い始めた私は、溢れるようにいる男だらけの空間に顔を顰めることとなる。)








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