君はトランキライザー

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飛行船の中を歩き漸く見つけたシャワー室の中は勿論女性専用のもので。
荷物を置き、服を脱いでいた私は背後で開いた音に気付き振り返った。
五人ほど入れそうな広い空間に入ってきた同い年の少女の姿に目を見開いた。

――ピンク色を基本とした服を身に纏う彼女――ポンズは驚きの表情を浮かべた。
――彼女も一人だと踏んでいたのだろう。

「――あら、貴方も入るの?」
「うん。ずっと走っていて…汗かいたからさ。それに、男の中にずっと居たから…すっきりしたくてさ…」

そう。サトツと名乗った試験官を追うために、あの中を走るのは堪らなく苦痛だったな、と。そんなことを呟いた私の顔を見て、同感だと声を発した彼女もあの時間は苦痛だったらしい。
自然とお互いの空間が打ち解け合ってきたのを感じた私は、口を開く。

「――もし、良かったらさ…貴方の名前、教えてくれないかな?敵同士なのは分かっているけど…、同い年の女の子って中々居なかったからさ…」
――まさかの主要キャラと関わる形になるとは思ってなかったし。
女の子との時間も欲しいなあとオヤジ臭い思考の中に入っていた私は同じく服を脱ぐ彼女の顔を見た。

私の発言が意外だったのか、驚きの表情で見ていたポンズの大きな瞳は可笑しいと言わんばかりの色に染まっていて。小さな笑みを溢した彼女はええ、と同意を示した。

「――そんなこと言われるなんて意外だったから…ちょっと、驚いちゃった…。
貴方って試験の間、ずっと人を観察している感じだったから…。」
(―――おや。気付いていたのか…)

観察しているというか流れを見ながら、記憶の片隅に転がる場面を思い返しているだけなんだけども。それでも、同年代の人間と話せたと言う嬉しさを覚えた私は口を開いた。

「――周りの人間の行動を見て楽しんでいるだけだよ。――私はエミ・ソリア。貴女の名前を伺ってもいい?」
「――ええ、ポンズって言うわ。よろしくね、エミ。」

――ハンター試験の最中。同性同士、服を脱いでいる状態で握手を交わす光景は可笑しかっただろうけども。
一緒にシャワーを浴びた後、意外に気さくでさっぱりしたポンズの性格に意気投合した私たち二人はその後、一緒に食事を食べる仲となった。勿論、メアドと電話番号の交換はかかせなかったけども。
そして女という生き物は恋バナというものが好きな生き物なのは確かなようで。
アイスを食べていた私の前で前のめりになったポンズは年相応な笑みを見せて口を開く。

「―――で、エミは…さ。この試験で良い男見つけたの?」
「買b!!…えっと…いきなりどうしたの?ポンズ。」

――可愛らしい顔だからこそ許せるのだが、鼻息が荒い彼女の声は大きくて。
そんな人物が思い浮かばなかった私は首を横に振り拒否を示したまま、ポンズを見て問う。

「――そういうポンズはどうなの…?」

可愛らしい彼女のことだ。きっと、誰か居そうだと考えた私の視界に入ったのはハッキリと居ないと宣言した彼女の姿で。でも、微かに頬を赤く染め、視線を逸らした彼女の視界に入った人物に私は唇を緩めた。―――ツンデレだねえ、ポンズさん。
可愛い。可愛いすぎる。

「――あの人って、確か弓使いの…人だよね?」
「―――えッ!!いやいや、違うからッ!エミ…ッ。変な勘違いしないでね…ッ」
「……了解〜」
「―――……絶対誤解している……」

違うから、と必死に否定するポンズの言動は肯定している様なものだったけども。
ともあれ、二人の仲を縮めることができた私は廊下で寝ると言った彼女の誘いに即答で頷いた。――クラピカ達に一言言った方が良いかな、と考えた私はポンズに手荷物の見張りをお願いしたのち、飛行船のどこかで寝ているであろう彼らを探し始めていて。
廊下を曲がった瞬間、出会った人物に眼を見開いた私の姿に驚きの表情を浮かべた彼女は眉根を揺らした。―――肌を覆う彼女の空気を読み取る限りご立腹らしい。
―――何故だ。私は何もしていません。さっきまでガールズトークをしていただけです。

「―――漸く見つけたわよ…406番ッ!…話があるから来なさいッ!」
「うえええッ!?…いきなり、どうして…」
「私の命令が聞けないのッ!?」
「………」

メンチさんはどうやら女王気質の様だ。










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