全てが優しい世界に満ちて

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「―――ぐ…」



腹部を襲う鋭い痛みに耐え、点滴台を押しながら、病室から出た私の視界に入ったのは廊下から見える窓の景色。
その景色にまた心の臓が強く鳴り響いた。



「――――ウソだ…」



――――それは、ナルトの世界の前にいた自分の世界と似た存在で。それでも肌に触れるこの世界の空気に己の本能が訴えていた。




(―――どうして…また違う世界に来ているの)




足の裏に触れる廊下の冷たさにこの世界が冬だと分かっていながらも、感情は追いつかないらしい。
衝撃――、その一言に近い感覚に打ちのめされた私は廊下から見える窓のカギをゆっくりと開けた。
外の空気は酷く冷たく肌を刺激するもので。
零れた吐息が白の霧に変わった。






「―――師匠。」



脳裏に蘇ったのは、自分を家族と想い接し愛してくれた心配性で気弱でそれでいて大好きなシズネさんの姿で。彼女に何も言わないまま、離れた己の行動に悲しくなって。
自然と体が窓の外へと飛び出そうとしていた己の動きを止めたのは、一人の青年の声。




「―――バカなことするな!」
「―――へ…?」




廊下に響いた怒声に意識をこちらの世界に戻した私の視界に入ったのは、黒の学生服を見に纏う青年の姿で。
黒髪の黒眼。日本人特有の特徴を持つ彼の顔は酷く整っていた。







「―――お前何しているんだよ!命を無駄にすんなよ!」
「え、は、ほえ?」
「―――丸三日も寝ていて、心配していたんだぞ!怪我しているんだから!」




―――初対面だというのに、何もしらないくせに。不安定な私の存在を真っ直ぐに見つめ、真剣に怒ってくれた彼――北村ユウとの出会いはこの世界の始まりでもあった。






















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