全てが優しい世界に満ちて
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「―――エミ。行こうー」
「うん。そうだね。」
笠原の笑顔に自然と笑みが零れる。
北村と色々とあって、落ち込んでいる私の傍にいる彼女の優しさに何度救われたことだろうか。
彼を忘れられない気持ちは―――己を縛り付けているけど。
それでも、彼女と手塚の存在に落ち込んでいた気持ちが少しずつ回復したのも事実だ。
「笠原、吉井」
「―――あ、はい!」
堂上教官の呼びかけに返事を返した私は眉根を寄せた彼の顔を見つめた。
「―――笠原のこと、頼むな。…お前も色々とあると思うが…」
「―――はい。大丈夫ですよ!」
笠原と同じく落ち込む己を心配してくれた堂上教官に頷いた私は、寮へと歩いていく彼女の後を駆けていった。
―――――――――
「笠原さんですよね!お部屋までお持ちします。」
彼女の後を登っていた瞬間、背後から聞こえてきた声に目を丸める。
業務部の制服を見た瞬間―――ずきりと傷む心臓を気にしないように息を吐いた私は、笠原の傍に近寄っていく3人の女性を見た。
青色の眼が彼女たちの目を捉えた瞬間――確信のような感情が込み上げた。
(――――人を馬鹿にしたような…目ね)
冷静に分析するのは己の今までの忍びとしての性だろう。
笠原に2人近寄っていく中、1人が私の荷物に手を伸ばした。
「―――吉井さん。荷物、持ちますよ。」
「はあ?―――触らないで貰える?」
普段、発さない鋭い己の声に。
茨城の業務部の女子の驚いた顔をする中、顔を引きつらせた郁の横顔が視界に入った。
「―――茨城の業務、あんまりいい噂聞かないわよ。…防衛部にあまり良くないことしてるって聞くし。
…私たちは生憎、貴方たちと違って鍛えているほうだから、荷物くらい運べるけど?」
己の鋭い挑発にさすがに苛立ったのか。
リーダー格の女性の表情が歪んだ。
「な…何ですか。それ…。私たちが何したっていうんですか…!」
「―――はあ。」
こりゃ、おさまりがつかないな。
静かにチャクラを練り上げた私は、三人と郁には見えないスピードで印を結ぶ。
瞬間―――私たちの顔を見た彼女たちが顔を青ざめさせた。
「――――ッ…な…なにこれ」
「い、いやだ…。みたくない…」
「あああああああ!」
三人の叫びと走り去っていく後ろ姿を見届けながら郁が不安そうに私を見た。
「―――な…何したの。よ…吉井様…」
「―――さあ、何か幽霊でもみたんじゃない」
幻術を軽めにかけたのだが―――作用もそこまで長くない筈だ。
はあと疲労を感じながら、階段を登りはじめた私は駆け下りてきた防衛部の人間に目を細めた。
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