レトロスターの降った夜

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生きるとは。
相手の命を奪ってから成り立っているものだ。
例えば、植物の命を戴くように。
同じように鼓動を打つ生き物の血を啜る様に。


貴重なタンパク源ともいえる彼らを食べて私たちは人という生き物は生きている。



何とも貪欲で身勝手なんだろうか。




それでも、私は生きたいと思う。
あの人と同じ色を持つ、空の下で。



初めて愛情を教えてくれた彼の為にも。




―――――――――



「なあ、お嬢ちゃん。ここ入って行かねえか?」

「パス」



道を歩いていた私は、肩を掴んだ感覚と言葉に。息を吐くと引きつった笑みを浮かべて振り返った。
マントの下で揺れる黒髪の下に潜む眼は。
きっと己の感情を上手に表しているであろう。




「そんなこと、言わんでさ。ほら、はいれやっ!」
「―――いやです。」



肩を掴んだ掌を掴んだ私は、圧倒的な力で男の腕を捻りこむ。
瞬間、響くのは苦痛をあげる悲鳴。



「い…いてええええええっ」
「ほら、言わんこっちゃない。」



腕を離した親父の足元を掬うように薙ぎ払った己の視界で。
見事な回転を繰り広げた男性が地面に転がる。
人込みの視線を避けるように、地を蹴り上がった私は屋根の上に飛び上がると。
ゆっくりと飛び跳ねるように、駆け出した。










ここは高華王国、私は今、緋龍城と呼ばれる場所に向かっている。
およそ二年前、旅をしていた私が怪我をしていた兵の命を救った、お節介な切っ掛けで。腕がたつ私の存在を王に知られたのだ。
その戦力を求めるためにこの国へと所在している。今は、ある人の護衛を主に任命されている。




空に線をかくように、屋根を伝っていた私は再び飛び上がると開いたままの扉の中へと飛び込んだ。中で柔らかな笑みを浮かべる少女の姿を視界に入れ、唇を緩める。



「あ、エミ!」
「お待たせしました、ヨナ姫様。お約束のものですよ」


そう言って手渡したのは、彼女が城下で好きだと言っている。
桃色饅頭と呼ばれる甘味だ。


「…わあっ!ありがとう!」
「いえ、お気に召したのなら十分です」


彼女の紅の髪は、あの人とは違う髪質だけど。
それでも、大切にしたいと思うのは私が年下の彼女を妹のように思っているためだろうか。
綺麗に整っている彼女の容姿を優しく見守ると同時に再び塀の上へと飛び乗った。


「あ、どこに行くのよ!私と一緒に食べようよ!」
「有難いお言葉ですが、私は今から用が入っておりますので。こちらで失礼します」


風に揺れた黒髪を感じながら、バク天するように地面へと降り立った私はヨナの制止の声を聞き流す。
音をたてずに、地面へと降り立った私は、ゆっくりと宮殿の中を歩き始めた。




私の名前は、エミ。
産まれた場所も親の顔も覚えていない。
特殊な奇妙な血ゆえに、村より追放された記憶は微かに持つ。


捨て子の私を拾った彼―――タスク師匠によって力と知識を得ることができ、今を生きる。


厳しくて、時に優しさを見せる。
私が泣いた時、傍で見守っていた彼は。



私が18歳の時に、別れたきり会っていない。
きっと、今でもしぶとく何処かで生きているだろう。











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