レトロスターの降った夜
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どれほど歩いたのだろうか。
日の向きを見ながら、微かに息を荒げていた私は。目の前で歩くヨナ姫の姿を見つめた。
(だいぶ…疲れているわね)
「…姫、ヨナ姫。少し休みますか?」
ハクの言葉と共に。
微かに頷いた彼女を見ながら息を吐いた私は。
木にもたれかかり焼失したように呟く彼女の声を聞いた。
「ミンスは…死んじゃったの?私も死ぬのかな。ハクも…エミも…スウォンに…殺されて」
「あんなクソッタレにやる命なんて持ち合わせてねェですよ」
ハクの言葉に、菫色の揺らした彼女が零した言葉。
「死なないでね…ハク。エミ…。死んだから」
許さないから―――。
精神的な疲労と身体的な疲労だろう。すぐに眠りにつく彼女の横顔を眺めながら、腰を下ろした私は、目尻を緩めた。
「―――まだ信じられねェな…」
彼女の隣で零したハクの言葉に。
首を傾げた私を横目で眺めた男の姿を捕える。
「姫を…独りにして。しょーもねー王様だよ」
「…っ」
それは、ハクが。
イル王を信頼し尊敬し、傍に支えていたからこそ。零れた真の言葉。
「陛下…どうすればいい」
その問いに応えてくれる人は。
もういないのだから。
―――――――――――――――
旅を初めて数日後。
まるで魂が抜けたかのように、与えられたことだけをするヨナ姫に。
ハクが戸惑っているのを傍で見ながら、私は息を吐いた。
ずっと、一緒だったんだ。
家族のような、温かい感情で繋がっていたのに。
何故、こんなことになったのだろうか。
魚を取り、ヨナ姫に食べさせようと動くハクとは対象に。
汚れ物を洗いに行っていた私は川の水を眺めながら水を掬い上げた。
(――――お前は、無駄な思考を持ちすぎるんだ。エミ)
遠い昔、赤い髪を揺らして笑った男の姿が瞼の裏に蘇った。
特殊な血ゆえ、力ゆえ。
そのコントロールを教えてくれた彼は私の未熟さに。呆れながらも鼻で笑っていた。
(―――何でですか。)
(お前は無駄に優しいんだ。もっと心を鬼にすることも必要だぞ。じゃ、ねーとお前がつぶれるぞ?)
ねえ、師匠。私がヨナ姫に出来ることは何なのだろうか。
私は彼女の国に求められたのは戦力の一部にしか過ぎない。
だけど、今は彼女を守る護衛であり。
年下の妹のような少女を守りたいと思っている。
空は何時までも変わらないのに。
どうして人という生き物は変わって行くのだろうか。
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