好きなくせに馬鹿みたい

□第一話 
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空を覆うのは、一寸先もみえない暗闇と散らばるように存在を表す星の数々。
夜ということもあり、外もだいぶ寒さをみせはじめている。冷えた冬風を吹かすように己の身体に当ててきた冬空を見上げながら、小さく息を吐いた私は、冷えた指先に感じた温もりに気づき、横に視線を送る。
温厚な雰囲気を出している少年は、彼のトレードマークである黒ぶち眼鏡を中指で押し上げ、ゆっくりと私を見つめた。



「……エミさん」




「んー?どうしたの?雪男くん」





どこか震えた声音で声を発し、私の名前を呼んだ雪男は緊張な面持ちで私を見つめたまま、動かない。その様子の変化を眺めていた私は、ゆっくりと強く握られていく指先に気づき、彼を見つめた。





「…僕、エミさんが好きです」



震える唇でその二文字を零した雪男はまだ幼さを残す丸い頬を赤く染め上げて、私を見つめ口を開く。冷えた空気を漂わせる冬空の下、白い息を吐き続ける雪男を見ながら先程、吐き出したその言葉を頭の中でリピートする。数分後、え、と小さく声が零れた。



「好き…ってのは、友愛のことだよね?」



確認するように、隣に座っている年下の少年に問いかけた私は静かに自分を見つめるその瞳を見た瞬間、確信に近い感情がこみ上げてくるのを感じた。
――雪男は、本気だ。




「違います。恋愛対象として好きって言ってるんです。何なら、今ここでキキキスッ…とかしてもいいですよ」



私を見つめ言葉を発しながらも、肝心な言葉が出てこない雪男の初な姿に思わず、苦笑が零れた。
幼さゆえの駆け引きなのか、絶対不可能とも取れる彼の初な行動に自分よりも年下ということ再確認させられながら、言葉を続ける。




「いや、それは遠慮しとこうかな。まだ、私も雪男くんのこと可愛いお友達にしかみえないし。…でも、もし私のお願いをひとつだけ聞いてくれるんなら考えてもいいかな」




よいしょ、座り込んでいた尻を浮かせ砂の付いた服を叩きながら起き上がった私はすぐ後ろにいる雪男の顔を見つめながら、小さく微笑む。冬空を見せる星空を見上げながら、ゆっくりと口を開く。


「仮にさ、もし、このまま会えないことがあっても、その時でも雪男くんの気持ちが変わらなかったときは…その気持ちを受け取りたいと思っているから」




それまで、待っててくれる?




びゅう、冷たい風が頬を撫で、二人の間を裂いていくように通り過ぎていく。と同時に地面に顔を伏せていた落ち葉を空中にへと巻き上げた。




「…離れるなんて、そんな馬鹿なこと言わないで下さいよ…。仮に、ですよ。もし、エミさんが僕から、離れるようなことになっても…」






僕は、忘れないですから。





先程の発言にショックを受けたのか、私を見つめたまま黙り込む雪男の表情は強張っており、意識しないうちに震えている彼の掌は無意識のうちに、私の掌を覆い、強く掴んでいる。少年らしさを残したままの彼に視線を送ったと同時に不安そうに揺れる蒼色の瞳を見た私はあふれ出す胸の痛みを振り払い、小さく笑った。




「じゃあ、雪男君に賭けてみようかなー。」




んふふ。
小さな笑みを零し、隣にいる雪男を見ながらゆっくりと顔を上げる。
冬空に姿を現している星の光と傍にある雪男の掌の温もり。
いつも気づかぬうちに傍にあったその温かさを感じながら私は、ポケットにある小さな紙切れと書いてある文字に視線を送らずに、ゆっくりと握りつぶした。






そして、その一週間後。


彼に伝えた発言道理に彼女、
木村エミは一人、姿を眩ましたのであった。




それは、ほんの始まりでしかない




物語の幕開けだった。















 

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