好きなくせに馬鹿みたい

□第二話
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「…寒っ」



頬に触れた空気の冷たさに耐え切れず、肩を竦めるようにマフラーの中に顔を埋めた少女は小さく息を吐く。
ふわり、白い息が空中へと溶けていく様子を眺めながら空を見上げた少女は小さな光を散らす星を見つめながら、目を細めた。



――今日は、珍しく空が晴れているようだ。



『エミエミっ、どうしたどうしたっ?悪魔でもいたのか?』





足元でくるくると回転していた声の持ち主は、動きを止めて主の姿を見上げながらも言葉の速さを緩めない。
ふわり、身を包む茶毛が揺れるのを見ていた少女は心配そうに見上げる使い魔を見下ろし、小さく首を横に振った。




「いいえ、そんなものはいないよ。…もう、冷えてきたから…早く帰ろうか、トラ」





エミと呼ばれた少女は地面に座り、二つに分かれた尾を揺らす使い魔の名を呼び、再び歩みを進める。
後ろから聞こえる使い魔の甘えた声が近づいてくると同時に肩に触れた温かさとその重みに小さく笑みを零した。



本当に、分かりやすい子だ。




『ひどいよなー、エミって僕を置いていくんだもん。ちょっとぐらい待っててもいいじゃないの?』






「はいはい、分かった分かった。今度から、置いていかないからそんなに怒らないでよ。トラさん」






家へと続く道を歩きながら、肩に乗ったまま動かない使い魔を宥めていた私は森の中に建っている今の自分の家へ足を向ける。
後、少しだろう。
視界に入ってきた家の存在を確認しながら、階段を踏みしめていた私は玄関の前に立つ人影に気づき、足を止める。


かちゃり、
何かを外す音が響くのを感じた私は歩みを止めて暗闇の中、立ち尽くす人影に意識を向け集中を高める。


肩に乗ったまま、小さく唸った使い魔に横目を送りながら、ゆっくりと口を開いた。




「…誰です?」




私の声に今まで人がいたのを気づかなかったのか、人影は慌てた様子を見せながらゆっくりと私の傍へと近づいてくる。
電灯の灯りの下、一つに束ねた髪を揺らし、夏のようなビキニと短パンの姿を見せながら彼女特有の口角を上げて笑うその姿に私は抱えていた荷物が手元から滑り落ちるのを感じて慌てて抱えなおした。



胸元にある不思議な模様と腕に抱えている黒のコート。



それは、間違いなく祓魔師になった者へ支給される物だ。





「にゃはは〜…、三年も姿を消しているから探すのに結構苦労したけど…元気だったか?エミ」



にやり、意地の悪い笑みを零す女性――霧隠 シュラは私を見つめながら言葉を零す。
あの時見た笑顔と変わらない表情を浮かべながらも、どこか悲しそうに目を細めるシュラの姿に胸が痛むのを感じ、私は小さく息を吐いた。




「…この通り、おかげさまで元気ですよ。
…良いですから、中に入りましょうよ、シュラさん」



「おっ…、気が利くね〜。
エミは。じゃあ、お言葉に甘えて中に入れてもらおうかな…」





にゃはは、彼女特有の笑い声に懐かしさを覚えながらも、振り払うように首を横に振り、玄関へと足を進める。コートのポケットの中に入れていた鍵を取り出し、鍵穴へと差し込んだ私は指定されたその動きに従うように手首を動かした。










第二話









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