好きなくせに馬鹿みたい

□第三話
1ページ/3ページ






ガタンッ。

電車の車内が揺れる瞬間に感じた浮遊感と身体を横に引っ張られる慣性の力を感じながら、エミは閉ざされたドアの窓から見える光景を眺め、ゆっくりと立ち上がる。手元に抱えていた荷物を持ち上げながら、ドアのほうへと足を向けた彼女は、開いたドアの隙間から入り込んできた風を潜り抜けるように、ホームへと足を下ろした。



「…三年ぶりかあー。そりゃあ、変わってるよねー…」


見慣れた光景が広がらないホームを見渡しながら、誰に向けてでもなく、一人呟く。
首元を覆うマフラーに顔を埋めながら、カバンを地面に置いた彼女は、コートのポケットに仕舞い込んでいた紙を取り出した。


手のひらに収まるそれに書かれているのは、自分が向かおうとしている場所の住所らしき文字が並べられているだけ。



この駅から距離はだいぶあるが、外に止まっているタクシーでも捕まえたらいいだろう。

そう一人計画をたてながら、荷物を持ち上げたエミは、振動を訴え始めたカバンに気づき、小さく息を吐く。
肩にかけながら、チャックを縦に裂くように開いた彼女の目前で顔を出した存在に思わず苦笑が零れた。


「駅まで出るって約束だったでしょ。何、勝手に出ようとしてるのよ。トラ。約束が守れないなら、今日のご飯はなしにするよ?」




『ごはんなしは、嫌っ!僕、ちゃんと電車の中静かにしてたから、もう外に出て良いでしょ!?エミー。』





いやー、いやー。

駄々をこねている使い魔を見下ろしながら、小さく息を吐いたエミは周りから感じる視線を気にせず、使い魔の首根っこを摘み上げ地面へと下ろす。
と同時に、開けっ放しのカバンを閉じた彼女は、地面に座り尾を揺らすトラを見下ろしながら、自分の肩を叩いた。


「我慢したから、許してあげる。そのかわり、ここで大人しく座っているんだよ。」


分かった?、そう笑いかけた自分の頬に触れた柔らかい毛の感触と温もりに使い魔が肩に乗ったことに気づいたエミは小さく苦笑を浮かべながらも、出口へと足を向ける。



ふわり。

不意に頬に触れた冬風から、甘酸っぱい甘い香りがした。





第三話






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ