好きなくせに馬鹿みたい

□第五話
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――冬は苦手だ。


景色やその季節だからこそ感じることができる冷たさを嫌いと言っている訳ではない。
冬と言う季節が来ることは、己にとって好ましいことでもある。だが、それと同等に、深く沈んでいる記憶の中にある嫌悪感を蘇らせる時期でもあるのだ。




布団に残る温もりと、肩元で丸くなり眠っているトラの毛の柔らかさを感じながら、体を襲う疲労感に小さく息を吐く。
閉じた瞼の先にある暗闇でさえも、聞こえてくる誰かの悲鳴。夢の中から抜けたとはいえ、未だに消えぬ居心地の悪さは消えることなく己の中にあった。




「…もう、二週間かあ…。早いねえ…」




毛布に身を包ませながら、吐く息は白い。
ふいに見上げた視線の先で白く曇る窓を見上げながら、外と中の温度差が激しいことに気づいたが、ここの居候としての自分の立場を考えたら、寮の手伝いをするため、外には嫌でも出ないといけないだろう。
ふわりと、頬に触れた柔らかさに癒されながら、ゆっくりと目を閉じた。




ここに来てはや二週間。
初日に雪男からとんでもないことをされた以外では、特に問題はなく、のんびりと過ごしている。こんな風に過ごすと言うことは、自分にとっては本当に久しぶりかもしれない。




「あー…、幸せだ」





ごろごろ、布団の中で身を丸めていたエミは頭上で鳴り響いた着信音の音に反応し、腕を伸ばす。
カチャリと音をたてた、折りたたみのそれを開け、通話ボタンを押した彼女はゆっくりと耳元に近づけた。





「――もしもし…」




『―――あ、エミか?わたしだよ、わたし。』



繰り返されて呟いた三人称と呼ばれた自分の名前。それだけで、電話をかけてきた本人が分かった私は思わず溜め息が零れるのを感じた。




「シュラさんでしょ?ちゃんと分かってますよ。…それより、何ですか?」




話の先を促した私の言葉に、話がはやいな。と呟いた彼女に頭が痛くなるのを覚えた。

じゃなかったら、この人の部下をやれないと思うのは私だけだろうか。
まあ、ひとまず、この人の話を促したほうが早いのだろう。



「…いやーね。ちょっと、あんたに話したいことがあってさ。今、あんたがいる所に近い駅にいるんだが…会うことはできないか?」




残念ながら自分の身は、雪男のような学生でもなく、燐みたいな職を探してもいない、祓魔師という役職を与えられている数少ない人間だ。そんな自分が上司に呼ばれていると言うことは、イコール断ってはいけないということで。





「…はい。分かりました」





仕方なく承諾した私は、まだ暗い空を眺めながら、ベッドから起き上がる。
ひやり、身を包む空気の冷たさに思わず、小さく、くしゃみを零した。












第五話











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