好きなくせに馬鹿みたい

□第六話
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シャツ越しからも感じることのできる冷たさを感じながら、空を見上げた己の視界を塞ぐのは空中を切り裂く透明な線と、水滴だけで。


――ぶるり、と。寒気が背筋を上るのを感じつつ、修道院のドアの前で立ち尽くしていた私は、足元で自分を見上げるトラの視線を感じながら、小さく息を吐いた。




原因不明の死、として片を付けられた藤本獅朗神父の葬式は修道院の者達だけで執り行われる筈だった。だが、彼の人間性に助けられた人間は多くいたらしく、修道院の者達だけで行われるはずだった葬式も地域の人間が足を運ぶ程の大きさとなっており、受付の対応を任された自分の作業が落ち着き、解放されたのは、先程のことで。



受け入れられない彼の死を再び、再確認させられるのを感じながら、込み上げた感情を押さえ込んだエミは涙雨の空を見上げ、息を吐いた。




「―――相変わらず、甘い人でしたね。貴方は…」



本当に、呆れるほどに。




はあ、と。小さく零れた息を感じつつ、視線を動かしたエミは目の前に現れた影に気づき、顔を上げる。と共に、目の前で傘を折りたたんだ彼の足元に落ちる水滴がコンクリートに染み込むように、消えていく姿を見下ろしながら彼を見上げた。



「――お疲れ様です。エミさん。受付大変だったでしょう?」



「――雪男くん達と比べたら私なんかは、全然、大丈夫だよ。…それより、雪男くんのほうこそ大丈夫なの?」



無理はいけないよ?





自分より高い彼の顔を見上げ、顔を覗き込んだ己の視界に入るのはほんの少しだけ疲労を浮かべる彼の表情で。少し濡れた彼の頭を優しく撫でる動作を続けていた己の行動に目を見開いた彼は、次の瞬間、苦笑を浮かべた。





「――どうしたの?」



「え、いや…。貴女が優しくしてくれるものですから…勘違いしそうで…。」






――僕も困ったものです。




そう言葉を零した雪男の言動と表情に、自分が目の前の彼から告白されていたことを思い出したエミは、そうだったね。と言葉を返しつつも笑みを浮かべ、雪男を見上げた。



「――それでも、大切な一人なんだから心配になるのも仕方ないでしょ。いいから、年下は大人しく甘えておきなさい」



よしよし、と。再び頭を撫でて笑う私の姿に頷いた雪男は目元を緩め、笑みを浮かべる。ふわり、と。彼の柔らかな体臭が鼻腔へと届くのを感じていた私は、耳奥で鳴り響いた心臓の鼓動を抑えこみ、顔を上げる。



と同時に、視界の隅に入り込んだ黒い影に気づいた私は雪男の背後に立ちすくむ人影に目を見開いた。











第六話














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