好きなくせに馬鹿みたい

□第十話
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「―――な、分かっただろ?」




  ・・      ・・
俺がここにいる限り、誰も幸せになれない。


・・・      ・・・
死ねるなら、いっそ死んでみたいよ。



月光が降り注ぐ中、感情を押し込めて呟いた彼の表情はとても悲しそうで、苦しそうなもので。ちがう、と。呟いた言葉さえも吐息と共に消えていく己の弱さに思わず泣きそうになった。




(―――行かないで。)





震える彼の手を握り締め、呟く少女の横顔は涙で濡れて、綺麗といえないものだったけど。瞳の奥にある強い光は決して消えることはないまま、目の前で微笑む少年の姿を捉えていて。
握り締めていた彼の手がゆっくりと離れていくと共に、視界の先で揺れた蒼い髪が彼の身体を包む青い炎とともに同化し、消えていく様を見ていた少女は嗚咽が零れる中、ただ消えた彼の名を呼び続けた。


























「――りゅう兄さん」




ぽつり、と。静寂を包む部屋に響いた己の声に反応し、起き上がったエミは布団に零れ落ちた水滴を止めるため、目元を擦る。ふ、と。再び零れそうになった嗚咽を噛み締め、息を吐いたエミは布団の上で自分を静かに見つめるトラの姿を捉えた。





『――アイツの夢、見たの?』




静かに自分を見つめ、それ以上を追求することないトラの言葉に頷いた私は、頭を襲う痛みに堪えながら、目の前に座る使い魔を抱き寄せる。ぱたぱた、と。双方に分かれた尾を揺らしながらも、決して文句を言うことはないトラの優しさに甘えた私は、掌で痛みを放つ印状に視線を落としながら、瞼を落とした。














第十話












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