星屑の欠片
□プロローグ
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人生っていうのは不連続な出来事と運命で成り立っている。
それを痛感したのは、身近な肉親の死がきっかけだったと思う。
まだ六歳だった私の現実を襲ったのは、母の死。不慮な事故でもなく彼女は病という名の運命の元、この世から去った。
『―――ねえ、エミ。お母さんね、貴方にお願いしたいことがあるの。』
「―――お願い…?」
学校帰りに寄った病院でベッドから起き上がったまま、口を開いた母の顔は穏やかな表情で言葉を落とした。
『―――貴女にはね、お母さんの仕事を継いでほしいの。』
―――母の仕事。その言葉と共に脳裏に過るのは、自宅の診療所で白衣を身につけ、患者さんと向き合っていた母の後ろ姿。
医者になってくれないか、そう声を落とした母の言葉に無邪気に頷いた私の瞳に残っているのは夕焼けを浴びながら、優しく笑う母の姿。
ありがとう。
彼女の言葉と共に零れ落ちた滴は嬉しさによるものだったのか、それとも己の抗えない運命に悲しみを溢した彼女の想いだったのか。
―――そんな母親の心中など、分からぬまま医療界の道へと飛び込み、働き始めた私はキャリアを積んだ5年という節目と共に一つの運命を背負った。
視界の隅に入りこむ眩しい車のライトと身体を襲う酷い痛みと多量に流れる血の量に不思議と客観的な思考を維持する医師の自分が下したのは死という文字で。
耳元に残る救助者の声と共に意識を失った私、――結城エミ、25歳はこの現代から魂を消した。
――――と、思ったのだが。
身体を襲った強い痛みも大量の出血も無く、意識清明な私の視界に入ったのは、優しげな笑みを浮かべる同い年くらいの女性の姿。
(――――はい?ええええっと、何じゃこれは…)
死んだと思った瞬間、己の視界は女性の腕の中で揺れている状況みたいで。
はい?、という疑問さえも何故か『バブ』という赤ちゃん語にしか変換されず。
嫌な予感と共に己の視界に入ったのは可愛らしい小さな掌。
女性によって持ち上げられた己の身体が小さくなっていることに気付いたのはその時で。
「―――――何じゃこりゃーーーー(おぎゃああああああッ!?)」
生後一日にも関わらず泣き叫んだ私の声は家中に響きまわるものだった。
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