星屑の欠片

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「―――エミ、お帰り。」


タズナさんの任務が終了し、歩き疲れた家で迎えてくれたのは二人の両親で。
明るく笑う雪さんと奥で振り返り安堵の表情を浮かべるトオルさんの姿を視界に捉えた私は、込み上げた感情を飲み込み、口を開く。



―――転生して、十年余り。
前世の意識を合わせると三十路過ぎになる己の秘密は二人には話したことはないけども。



―――帰る場所がある。
ただそのことに幸せを覚えた私は、自然と零れる笑みを浮かべ、ただいま。と声を落とした。











―――――――――



今回の波の国への任務はBランク以上。


無事に火の国に帰ってきた私たちを労わるかのように与えられた一日の休みは有り難かったけども。それでも、己が医療忍者になるために学ぶことは溢れるほどあり。


忍服に着替え、帯を結んだ私は肩まである癖毛の黒髪を結ばないまま、額当てを結んだ。




「―――よし。」


身支度を整え、医学書を数冊抱えた私は己の部屋から出て、リビングへと向かう。
鼻に届いたお味噌汁の香りに腹の虫が鳴くのを感じた己の感覚は間違っておらず。
料理を用意していた雪さんは一瞬驚いた表情を浮かべ振り返ったが、可笑しそうに笑う。



「――大きなお腹の音だと思ったら、エミだったのね。」
「――うん。お腹すいたよ…」



医学書をバックに仕舞い、テーブルに座った私はもう一人いない家の主の存在に辺りを見渡す。
リビングにおいてあるベストがないことに気付いた私は雪さんに視線を向けた。



「――お母さん。お父さんは今日任務なの?」

「――――えッ…ああ、そうよ。」



そう言って笑う彼女の顔は驚きの色を浮かべていて。ご飯を運ぶ彼女の顔を見ていた私は、首を傾げた。



「―――お母さん、どうしたの?」



トオルさんに何かあったのだろうか。
一瞬感じた恐怖を吹き飛ばしたのは、泣き笑いの表情を浮かべる雪さんの笑顔で。
口を開いた彼女は、声を落とす。



「―――だって、エミ。生まれてから一度も、私たちのこと…お父さんとお母さんって呼んだことないでしょ?

だから、母さんたち不安だったの。」


「―――あ、そうだったんだ…。」



―――両親を名前で呼ぶのは一線を引かれているようで悲しかったのだと。
そう言って嬉しそうに笑う雪さんを見ていた私は、あ、と声を出した。




(―――そうだ。波の国の…任務が行ってからだ…)


疲れ果てた己を迎えた二人の両親を見た瞬間、感じた感情。

二人の大切な家族を大事にしていきたいと
私は強く思ったのだ。



「―――分かった。これからは、ちゃんとお母さんって呼ぶから。」

「―――本当ッ!?ウソついたら、ご飯抜きにするからね!エミ。」

「―――うん。」





そう言って笑った私は目の前に出された温かい食事を前に手を合わせた。













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