星屑の欠片

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―――花の国から帰還してから、イルカ先生と無事仲直りしていた私たちの間には甘酸っぱいようなそんな空気が流れることない。
けれども前よりずっと、二人の間には穏やかで安心する空気が満ちることが多くなった。
―――初めて零した不安を払拭したイルカ先生の強引な口づけにより、以前より彼の表情はどこか安堵感を浮かべたものになっていた。



―――あの戦いで、改めて己の気持ちが彼へ向かっていることを自覚するとともに、その笑顔と温かさと人柄に惹かれ、惚れてしまっているのに気づいてから。素直になる努力を続けていた私は、彼の家へ行くことが多くなった。



子供だからとか、教え子だからとか。
色々お互い考えすぎてしまったけども。
私自身が好きなんだと言ってくれた彼の存在をこれからも離したくないという己の独占欲を必死に抑えている。
―――前世の記憶を持ち、イルカ先生よりも先進年齢が高いとはいえ。
―――私の恋愛歴は己の性格と以前の医師という仕事も影響してかゼロに等しいもの。



―――今に思えば、私にとってイルカ先生は。初恋なのかもしれない。







――――――




「―――…おい。日比谷。そんなところで寝たら風邪引くぞ。」



―――キッチンから見えるであろうソファーに声を向けるイルカ先生の声が耳元に届く。
けれどもそこに寝転ぶように資料を見ていた私はじんわりと訪れる眠気に誘われるように目を閉じた。



(―――あ…眠い。)


―――耳元に届くアルト色の声はどこか甘さを持っていて。その声を聞きながら瞼が閉じていくのを感じていた私は、頭を撫でる感覚にゆっくりと目を見開いた。


「―――こら。どこで寝てるんだ。」
「…んんう…。眠い…す」
「―――はあ。こりゃ、ダメだな。」


呆れた声音だけれども、己の体を気遣う優しさに胸がじんわりと温かくなる。―――好きだと、改めて感じる。



そんな私の体が浮遊感を覚えたのはその次で。
へ、と目を丸めた私は己の体がイルカ先生の腕の中に抱えられていると気付いて。
先ほどの眠気が一気に覚める中、彼の足は一室に向かっていて。
器用に開けた扉の先にあるベッドに己の身体を寝かせたイルカ先生の行動に己の鼓動は高鳴るばかり。


(―――へ、…は、ほえかい!?)


ぱちくりと目を開ける私に気づいているのか分からないが。同じようにベッドに乗ってきた彼の体重も合わせて軋む音が響く。


「―――エミ。」



イルカ先生の声とともに、ゆっくりと覆いかぶさった彼の行為とともに己の唇に触れたのはかれのそれで。繰り返されるキスを受けながら、緊張から震える己の掌を優しく包む彼の掌。
――イルカ先生から与えられる深いキスを解放されたのはその後で。


「―――ちょ…いきなりするんですか!」
「―――お前が可愛いのが悪い。―――あんなに無防備に寝る恋人がいて、何もしない男がいるか?」
「―――ッ、だからって…眠っている時に…んぅ…」


己の口唇を覆う彼の唇は己の言葉を吸い取ってしまい。
長く続いた口づけを受け、脱力してしまった私の身体を優しく抱きしめた彼は頭を優しく撫でるともに、眠る体制に入っていて。
その温かさとイルカ先生のにおいを感じながら己の眠気は再び襲ってきて。



「―――エミ、寝るのか?」
「―――…はい…」
「……分かった。寝ながら聞いてほしいんだけどな。」


彼の穏やかな声を耳元で感じながら、頷いた私は耳を傾けた。



「―――すぐにじゃなくていいから…えっと、な。…その、俺のこと。先生って呼ぶんじゃなくて、名前で呼んでくれないか。」



その声を聞きながら、己の脳裏に浮かんだのは照れたように笑う彼の表情で。
小さく頷いた私は、嬉しかったのか己の身体を抱きしめる彼の行為に瞳を細めた。








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