全てが優しい世界に満ちて
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―――それは偶然なのか必然なのか。
「―――おい。今日は外に出て大丈夫なのか。
」
―――神が仕掛けた一つの試練なのか。
「―――…うん。」
頬に触れる雪を振り払わず、診療所の入口にあるベンチに腰掛けていた私は、一枚羽織っただけの上着を握りしめながら、声を絞り出す。
目の前に立つ学生服の青年の顔を見上げた。
――――この世界に来て、一週間。
異世界という場所から来た私を助け、そして宙ぶらりんになっている心を拾ってくれた一人の青年―――北村ユウはあの出会いから時間を作っては出来たら会いに来てくれる。
(―――ある意味、普通じゃないのになあ…)
こちらの世界に来た私に神と呼んでいいのか分からぬ存在はオプションを付けてくれたみたいだった。
それは、―――チャクラを使えるということ。勿論、この平和な世界で争い事なんてないだろうし、私のこの能力を使うなんてことはないだろうけども。
「―――あー、寒い!早く中に入ろうぜ。」
「―――…そ。」
―――相変わらずの感覚で接するこの青年の存在は有り難い。けれども、私の感情は冷静な思考とは反対に切り替えることができなくて。
―――シズネ師匠の呆れた吐息が降りかかりそうだと考えながら私は、北村の言葉を無視し膝に顔を埋めた。
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