全てが優しい世界に満ちて

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―――訓練終了。
己より背が高い彼は鋭い眼光を己たちに向けたまま、黒髪を揺らした。
上司に当たる堂上教官。
彼の言葉と共に、ぐったりしながら寮へと帰る訓練生を見ながら小さく欠伸を溢した私は地面で寝ころんだままの女性へと視線を向けた。




「――あー。」
(―――あの子はさっきまで腕立てをしていた子だよね。)



己の髪より少し明るめの彼女の地毛。
寝ころんだままの彼女の傍に近寄った私は、ゆっくりと腰を下ろした。



「―――…ッ」
「あ、あの。大丈夫?」



返答がないことに不安を覚えながら汗をかいている彼女の額に優しく触れる。
酷く疲れた為か、私が触れても起きない彼女の疲労を静かに見つめていた私は触れている指先にチャクラを集中させた。




(―――すこしだけ、身体の疲れを取ってあげよう。)



彼女の体に流したチャクラは疲労させたであろう全身の筋肉に触れていて。
ゆっくりと目を開ける彼女の動きを見ていた私は、はっと何かに気付いたような表情を浮かべる彼女の動作を見つめた。





「―――あ、吉井さん。」
「お、ほい。」
「―――私に何かした?すごい身体が楽なんだけど。」
「――何にもしていないよ。」




―――チャクラとは精神エネルギーと身体エネルギーを練り込んだもの。それは他人に分け与えることによって疲労回復になる。






「――もう私はくたくたよ。―――吉井さんは凄いよねえ。5位でしょ!?」

「――まぐれだよ、まぐれ。」




―――よいしょっと。起き上がった彼女、笠原都さんはショートの茶髪を揺らし私を見下ろした。





「―――あー。お腹すいたね!もし良かったら食べにいかない?」


「―――あ、うん。」




同い年の同期。
彼女の出会いにより新たな試練を与えてくることをまだこの時の己は知らないのである。







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