全てが優しい世界に満ちて

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「―――全部隊へ。野辺山氏の告別式会場に―――不審者が侵入した。稲峰指令が襲撃を受けた。」



全館に放送を向ける玄田隊長の発言に続いた言葉に手塚は目を見開いた。



「―――そして、この小田原資料館戦闘中に図書隊一名を人質として連れて行ったらしい。タスクフォース医療委員―――吉井エミ。


速やかに撤収!」



―――手塚!怪我したら、頼んなさいね。


そういって笑った彼女の笑顔が蘇る。
―――この襲撃の際、前線に行く彼女が己の肩を叩いて笑った表情。
悔しさに歯を噛みしめた手塚は足を速めた。








――――――――――――




―――吉井エミも消えた。
その言葉を聞いたのは、柴崎から情報を得たためで。彼女と同じように図書部隊の部署に足を運んだ俺は笠原が零したヒントに答えを出した柴崎に思わず息を吐いた。
玄田隊長に視線を向け、問う。



「―――初めまして。玄田隊長。北村ユウ、柴崎と同じ業務部に配属されているものです。

…吉井エミは…」
「―――今の所、重症しか情報は得ていない。…お前は確か…あいつの友人だったな。」
「―――はい。」



背筋を漂う冷や汗と胸を覆うのは不安と恐怖と―――最後に抱きしめた彼女の温もりだけで。
思わず掌を握りしめていた俺は己にできない無力感に唇を噛みしめた。



「――――北村ッ」
「―――ッ!」


己の意識を取り戻したのは―――柴崎の言葉。
叩かれた肩に触れた掌が背中を叩いた。


「―――しっかりしなさい!エミはこんなことで死なないし、あんた私に言ったでしょ!―――待ってあげるんなら、少しはあの子のこと信じなさいよ!」
「―――お…お前…ちょ…ッ!!」



ここは吉井の部署だ。
彼女が零した言葉に―――俺が彼女をどう思っているのかわかるのは目に見てていて。
―――少しだけ生ぬるい視線を感じる中、顔が赤く染まるのを感じながら俺は「ああ、すまない」と声を発した。






それから―――彼女の居場所が分かった図書隊の行動は素早いもので。
ただただ俺は―――待っていることしかできなかった。


















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