全てが優しい世界に満ちて

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「へえ…郁の両親がねえ…。」
「そー!もう、エミが居なくて心細かったんだよー」


頬を膨らませ、私を見る彼女の表情は不貞腐れていて。
肩を竦めた私は、ベッドに腰掛けたまま彼女の話を聞いていた。


小田原資料館の戦いで足を負傷した私が病院生活から解放されたのは昨日のこと。
少しずつ体力を取り戻しながら、勤務をこなしている私の体を心配する彼女は相変わらず優しくて。


先日、彼女の両親が来た話を聞きながら笑みを浮かべた。


「―――でも良かったじゃない?ばれなくて」
「―――まあ、そうなんだけどさあ…」

過保護な両親の元、育ったという郁の不安は簡単には拭えないらしい。


(―――まあ、そりゃそうだよね)


私の今回の件で―――離れて暮らす二人の両親が見舞いにきた。そのことを思い出すと彼女のことを放っとけないと思うのだ。



―――――――――――――――


「―――エミちゃん!怪我は大丈夫なの?」


大勢の患者がいる部屋の入り口で叫ぶ母親の声に思わず紅茶を噴出しそうになった私は慌てて加奈子さんを見つめた。

病院で騒ぐのはNGだ。


「―――お母さん…。静かに。」
「もう…ユウくんから連絡が入ってビックリしたんだから…!怪我は?大丈夫なの?」

花を持ち、不安そうに見る彼女の表情に浮かぶ疲労に思わず息が詰まった。
―――NARUTOの世界から迷い込んだ自分を、治療してくれた有紀子さんとその夫である渡(わたる)さんは本当の家族のように支えてくれた。

そんな二人の家族は。


私にとってシズネさんと同じほど大切な存在だった。



「―――大丈夫。心配かけてごめんね…」
「本当よ?…全く、ユウくんが連絡してくれて助かったわ。私とお父さん、慌てて飛んできたんだから。

肝心の娘は連絡さえ、入れないしね」
「―――悪かったってば…」


母親に頭が上がらない私は謝罪を述べることしか残されていなくて。
それでも私の顔が見れて安心したのか。
自然な笑みを浮かべた彼女はああ、と声を上げた。


「―――それより、ユウくん。久しぶりに会ったけど。」
「…ああ、北村?どうしたの?」
「―――またいい男の成長して〜。お母さん、見とれてしまったわ。

まあ、あの子のお父さん。図書隊でもモテモテだったみたいだけどね」
「―――北村のお父さん…知ってるの?」


母親の言葉に目を丸めた私は、「あら、話したことがなかったかしら?」と声を落とす。



「あの子の両親、20年前の「日野の悪夢」で殉職したのよ。」
「――――ッ」


何度も聞いたことがある言葉とその事実に。
衝撃を覚えた自分を感じながら、母親の顔を見つめ口を開いた。






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