全てが優しい世界に満ちて

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―――私と北村の関係が。

以前よりも少しだけ変わったような頃。

当たり前のように私の部屋に来て、パソコンを弄っている姿にシャワーから出てきた私は、空色の瞳を丸めた。


「―――何、見てるの?」
「―――ッ、お…おい!そんな恰好でくるな!」
「えー…だって、北村だからいいじゃん。」
「―――――!!」


キャミソールにズボンだけの私の姿に、
顔を真っ赤にした北村の冷静な顔が崩れる瞬間が少しだけ楽しくて。
意外に初心だな、こいつと思いながらタオルで髪を拭いた私はベッドに腰掛けた。



「―――まあ、吉井だから仕方ないか…」
「そーそー…諦めなさいな。…何、それ」


“図書館員の一刀両断レビュー”


「何これ…」

自分が好きな本を蔑むそのサイトに顔を歪めた私は郁がある人物に怒っていた昼間を思い出してた。よく分からなかったが―――確か砂川って同期に怒っていたような。


「―――同期の砂川って男が書いているって柴崎から聞いたんだ。

…まあ、こんなことをしていたら、どうなるか目に見えるがな。」

「……」

呆れたように息を吐き、ビールを飲む北村の横顔は明らかに不機嫌で。
よくよく見たらこいつ、イケメンだなと考えていた私は、立ち上がった彼の姿に目を丸めた。

「―――吉井。」
「ん、何。」

隣で荷物を漁る北村の気配を感じながら、パソコンをスクロールしていた私は開いたままの彼のビールを口に含む。

…彼に特別な想いを抱いていたとしても。
私にとって北村ユウという人間は、変わらない友人のような存在で。
いつものように彼が飲みかけたビールを飲む私を呆れた視線で見下ろしていた北村は声を落とした。


「―――俺の相部屋の奴、今日彼女の連れ込んでいてさ。中々帰れねえの。」
「んー」
「そんで、外泊許可届けは出しているから、今日お前の所に泊まるな。」
「ぶーッ!!」


思わず口に含んだビールをパソコンに吹きかけてしまった、それをふき取ることなく、彼を見上げた。
当たり前のように、寝間着を抱える吉井の癖毛が強い黒髪が揺れた。


「は…はいいいい!?」
「うるせーな…。ただ寝泊まるだけじゃん。」


つくづく思うのだが。
北村ユウという男は、冷静でぶっきらぼうで、…マイペースな男だった筈なのに。


ここ最近は強引な所があるのだ。



神様…。私が彼を散々心配させた罰でしょうか。



―――――――――――――


―――私と北村のこそばゆい関係は変わらず続いていて。
そんな中、砂川が査問会に呼ばれて数日後。
笹原が査問会に呼ばれたと手塚から知らされた私は己の未熟さに唇を噛みしめた。


(―――大変な時に…)


それでも己にできることは限られていて。
査問会が終わるまで待っていた私の姿に肩を竦めた柴崎の姿が入った。

「―――私がいるから大丈夫よ。」
「いや…これは私の我儘だから。…それに柴崎さんも色々と大変なのに、気づけなくてごめんね。」


私の言葉に目を丸めた彼女の瞳が優しく細まり。
堂上教官と歩いてくる姿に気づいた私は、安堵の息を落とした。


査問会が始まってから、―ー周囲の笠原への態度は明らかなもので。
その中で、仕事以外でも傍にいるようにしていた私は、洗濯物を回している彼女の隣で欠伸を零した。


「―――ねえ、エミ。」
「んー…何。」
「エミはどうしてそんなによくしてくれるの?」


周囲の視線に笠原から笑みが消えていくのを視界に捉えながら私は、彼女の傍にできる限りいること決めていた。
彼女の苦痛を取り除ける人物はきっと―――堂上教官しかいないけど。
今、傍にいることができるのは。



「―――だって、笠原は…大事な友人だもん。…私は、見守ることしかできないけど」


―――NARUTOの世界からこの世界に来て。この仕事でできた大切な友人を。
見捨てたりはしたくなくて。


私の笑みに泣きそうな笑顔を浮かべる笠原の頭に触れる。
私が居ない時は、きっと、彼女が守ってくれるだろうと。
そう考えていた私は、優しく彼女の頭を撫でた。





―――――――――――





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