全てが優しい世界に満ちて

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―――あれ、綺麗だな。

―――ん、星空のこと…?


ベランダで空を見上げる北村の表情は冷静なのに、こどもっぽさが残っていて。
垂れた黒の眼が己を見つめた。



「小さい時に、色々とあったとき、こうやって星空を見上げていたら不思議なほど落ち着いたんだ。

なんか、俺を丸ごと全て優しく包んでくれているみたいな感じがしたんだ…。」
「ふーん。」


柔らかな癖毛が揺れるのを視界に入れながら己の記憶に戻ったのは、
忍びとして生きていた時にシズネさんと見上げた星空の記憶の欠片。


―――あの時とは少しだけ違う見え方に首を傾げた私はああ、と声を発した。


「―――違う…」
「あ?何がだよ。」


首を傾げる北村の顔を見上げ、笑みを浮かべた。


「―――北村がいるから、…余計に綺麗に見えるなあって」
「……ば…馬鹿じゃねえの。お前…」


顔を赤くした北村の反応に思わず笑ってしまった私の頭を


優しく撫でてくれた彼の掌が優しくて。
ほんわりとした温かな気持ちが己を包んだ。



あの時の北村に言えばよかったのかもしれない。


もっと、一緒に見たいなあ。と




――――――――――――――


私と北村の関係に溝ができてしまってから。
付き合っていると噂された私たちの関係が不仲になってからの女子たちの行動は明らかで。
その状況に必死に耐える私の表情に普段は心配しない堂上教官のフォローも束の間。
心配する手塚と笠原に大丈夫の1点張りの私は次の仕事場所に足を向けていた。







今回の任務は、茨城で行われる県展の警備だ。
どうやら展示される作品が今回良化隊の目的らしく。
防衛部、己たちタスクフォースが駆り出されるのは仕方ない話で。


バスの移動した車内で空を見上げていた私は結んだ茶髪が揺れるのを感じていた。


木の葉隠れの抜け忍、ギルと会ってから丁度1か月が過ぎて、次の満月が見える時まであと1か月の時間が己の前にある状況。



【―――また元の世界に戻ったときは、是非、一線を交えようね】

最後に笑ったギルの顔にため息が零れ落ちる。
窓に映った自分の顔は以前と比べて痩せていて。
その顔色に瞳を閉ざした私は、視界に入る景色に目力を込めた。










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